名古屋めしブームに名古屋民が抱く違和感の正体 実は「天むす」発祥の地は名古屋ではなかった

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名古屋の経営者は「お値打ち」を合言葉にしている通り、リーズナブルなものを好みます。既存顧客からの信用を守ることを第一に考え、新市場開拓には熱心ではありません。借金することを嫌い、背伸びして新規事業に取り組むことはまずありません。

信長や秀吉は、中世の伝統社会で異端児でした。それと同じように、山ちゃんやコメダは保守的な名古屋の実業界ではあくまで異端児。多数派とはまったく違う異端児を取り上げて「さすが名古屋!」と褒められると、嬉しい反面、ちょっと違和感を持ってしまうのです。

名古屋めしの何を見習うべきか

名古屋人の私が抱いている違和感はさておき、コロナ禍で未曽有の危機に直面する飲食業界に名古屋めしの成功は参考になるでしょうか。ここで、改めて名古屋めしの成功要因を確認しましょう。

第1に、「挑戦的な目標」を持っていることです。「世界の山ちゃん」の運営会社のミッションは「世界を変える Teba&Peace」。世界を意識した高い目標を持つことが、アグレッシブな戦略に繋がっています。大阪や神戸には素晴らしいB級グルメがたくさんありますが、名古屋と比べてあまり挑戦的ではない印象です。

第2に、「定番の領域で一捻り」していることです。人気の名古屋めしは、居酒屋・喫茶店・ラーメン・スパゲッティといった定番の領域です。ニッチな領域だと流行ってもすぐに飽和してしまうので、需要の多い定番の領域が望ましいわけです。ただ、定番の領域にはライバルが多いので、美味しさだけでなく、「世界の山ちゃん」のスパイスや「はなび」の担々麵の台湾ミンチのように、一捻り加える必要があります。

第3に、「過剰なこだわりを持たない」ことです。他県の地方グルメで、老舗店が「〇〇県らしさ」「本場〇〇県の本物の味」を強調し、東京などに出店しても地元出身者は「あれは本物の味ではない」と酷評します。

地元の人が自信を持って勧めないものを東京人が食べるはずありません。その点名古屋めしの店は、「名古屋らしさ」を強調せず、全国どこでも本場と同じ味をさりげなく提供しています。

いま全国の飲食店は、コロナ禍で先の見えない危機的な状況が続いています。ただ、「明けない夜はない」「夜明け前が一番暗い」とも言います。名古屋めしを1つの参考に、なんとか危機を乗り切って、これからも私たちに楽しい食体験を届けてほしいものです。

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日沖 健 経営コンサルタント

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ひおき たけし / Takeshi Hioki

日沖コンサルティング事務所代表。1965年、愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。日本石油(現・ENEOS)で社長室、財務部、シンガポール現地法人、IR室などに勤務し、2002年より現職。著書に『変革するマネジメント』(千倉書房)、『歴史でわかる!リーダーの器』(産業能率大学出版部)など多数。

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