最強戦艦「大和」に特攻させた「組織の論理」の怖さ 3000人超が犠牲、現代にも通じる愚策の背景

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世界最大・最強とうたわれた戦艦「大和」が沈んだ背景について解説します(写真:悠太郎/PIXTA)
太平洋戦争の末期、劣勢となった日本軍は戦局を挽回するために、アメリカの戦艦への体当たり攻撃である「特攻」に踏み切りました。そして海軍は世界最大・最強とうたわれた戦艦「大和」も特攻に投入しました。その決断の背景を探ると、危機下における組織の意思決定の問題点が浮かび上がってきます。日本海軍史研究者の戸高一成氏が解説します。
※本稿は戸高氏の新著「日本海軍戦史 海軍からみた日露、日清、太平洋戦争」から一部抜粋・再構成したものです。

多くの水上艦艇を失っていた日本海軍

昭和20(1945)年4月、レイテ(フィリピン)をめぐる「捷一号(しょういちごう)作戦」に敗れ、多くの水上艦艇を失った日本海軍は、洋上におけるアメリカ海軍との決戦能力を失い、戦艦「大和」以下の残存艦艇は瀬戸内海に空しく待機していた。

今や作戦行動を続けているのは潜水艦隊と護衛部隊、そして航空特攻のみとなってしまった。4月1日、アメリカ軍はついに沖縄本島に上陸を開始、ここに本土決戦の火蓋が切られたのである。この上陸に、アメリカ軍は実に航空母艦22、戦艦20を含む大艦隊を投入、1000機を超える航空機により徹底した攻撃が加えられた。これに対し、日本軍は効果的な抵抗ができず、アメリカ軍は攻撃初日に早くも飛行場を奪取、4月6日には作戦に使用しはじめた。

連合艦隊は、沖縄のアメリカ軍に対して「菊水」作戦を発動、全力特攻作戦を準備した。この「菊水」作戦について及川古志郎軍令部総長が天皇に奏上したところ、「航空部隊だけの攻撃なのか」とのお言葉があった。

これに関しては、「船のほうはどうしているか」とのお言葉であったとの説もある。いずれにせよ天皇としては単に作戦の情況を尋ねたもののようであったが、これを及川軍令部総長は、軍艦も特攻に出さねばならない、と受け取り、「海軍の全兵力を使用いたします」と奉答した。

この後、この水上特攻計画がどのような経過をたどって決定に至ったかは、なぜかあまり明瞭ではない。

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