引退後もさらに挑戦「五郎丸歩」強い精神の作り方 ネガティブだった意識が変わった瞬間とは?
その取り組みを意識したのは、大学1年生の頃。イギリスのスタープレーヤーであったジョニー・ウィルキンソンとの出会いがひとつのきっかけです。彼がプロモーションで来日した際に、幸いにも練習に立ち合えたんですけど、彼は1時間もの時間をかけてキック練習をしていたんです。世界的トッププレーヤーでもこんなに練習するんだ!って衝撃を受けました。
──その練習スタイルを五郎丸さんも取り入れた、と。
五郎丸:彼の練習を見て、つねに自身の状態を細かくチェックしておくことが、ベストプレーの基礎になると気づかされました。とはいえ、キックの留意点って感覚的な部分が多いので、整理をするのも一筋縄ではありません。そこで文字に起こしながら、具体的に記憶していく方法を採りました。“ボールをセットする際はボールを2回転させてから置く。そして3歩下がって横に2歩ずれる”など……。かなり細かく書き起こす中で、あのルーティンが完成しました。
──豪快に見えるプレーの中に、そんなに細やかな積み重ねがあったんですね。
緊張をゼロにはできないから、自分のルーティンをもつ
──五郎丸さんがとる忍者のようなルーティン・ポーズは社会現象にもなりました。ラグビーになじみのなかった子どもや年配の人までがマネするニュースも流れていましたね。
五郎丸:そうですね。ただ、あのポーズによってキックが決まるわけではないです(笑)。
キッズスクールなどでも子どもたちからルーティンのことをよく聞かれたんですけど、そんなときは「例えば、毎日同じ通学路を通っていたら緊張しないよね。でも、いつもと違うルートを行ったり寄り道したりすると、見慣れない景色に緊張するかもしれないし、事故に遭う確率も上がるかもしれない。それと同じことだよ」と説明していました。
──なるほど。確かに、いつもしていることだったら気張らずにできます。これは私たちの実生活に置き換えてもイメージしやすいです。
五郎丸:つまりは、不安要素を取り除いて平常心を保つ、ということ。成功体験を選び出し正しく行うことで、心の安定は高まります。それから、緊張をネガティブに捉える人が多いんですけど、大舞台では緊張するのが当たり前。だから緊張をゼロにするんじゃなくて、緊張した状況でもいつもと同じことが出来るようにルーティンを作っておくんです。