「会社のお荷物になる人事」「役に立つ人事」の差 経営者・事業責任者が明かす「人事部」への不満

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人事部門から実務が減ったことで現場との接点が減り、業務を知らない、現場を見ない、従業員のことを知らない、という頭でっかちな人事部員が増えました。

かと言って彼らが社会・労働市場・法制度の変化を踏まえて革新的な人事制度を経営陣に提案できているかというと、あまりにも変化が激しく、こちらも対応できていません。

こうして人事部門は、事業部門や経営者からの信頼を失い、人事部門のメンバーの人心が荒廃し、いま存亡の機に立たされているわけです。

どうすれば人事部は生き残れるのか?

この危機的な状況に、人事部門はどう対処するべきでしょうか。大きく2つのアプローチがあります。

1つは、「スーパーマン」を育てることです。ここで言うスーパーマンとは、人事制度の設計・運用といった人事部門の本来業務のみならず、他部門の事業運営のサポート、経営者の経営戦略立案のアドバイスなど、人事の枠にとらわれない幅広い業務を高度にこなす優れた人事担当者です。

もちろん、黙っていてはスーパーマンは現れません。人事の基本をしっかり学び、社内の各部門で業務を担当し、MBAなど社外の教育機関で研鑽する、というやり方で人材育成を進めます。ポイントは、有望な社員を選抜して長期的・計画的に育成することです。

もう一つは、「人事部門を廃止」してしまうことです。給与計算・社会保険など一般的な業務をアウトソーシングし、採用・評価など現場でやったほうが効率的なことを事業部門に任せ、人事制度の設計など企画業務をコンサルティング会社に依頼すれば、人事部門をなくすことができます。

「そんな極端なことを言うなよ」と思われるかもしれませんが、そうでもありません。冒頭で少し触れた通り、アメリカでは多くの企業が問題なくこのやり方をしており、経営者がその気になれば十分に可能です。

どちらのアプローチが良いでしょうか。

今回のヒアリングで、人事部門の関係者は「スーパーマンを育てるべき」という意見が多く、経営者や事業部門のマネジャーでは意見が分かれました。印象に残ったのは、人事部門責任者の次のコメントです。

「私も含めて人事部門の人間は、立場上、スーパーマンを育てるべきと答えます。しかし、スーパーマンってそんなに簡単に育てられるものではありません。スーパーマンを育てることもせず、かと言って人事部門がなくなっては困るので、経営者にこの問題に気付かないでほしいというのが、人事部門の総意ではないでしょうか」(金融・人事部門担当役員)

今後、人事部門がスーパーマンの育成に乗り出すのか、人事部門を廃止するのか、はたまた中途半端な状態を続けるのか。人事部門だけでなく、会社全体で考えるべき重要テーマと言えるでしょう。

日沖 健 経営コンサルタント

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ひおき たけし / Takeshi Hioki

日沖コンサルティング事務所代表。1965年、愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。日本石油(現・ENEOS)で社長室、財務部、シンガポール現地法人、IR室などに勤務し、2002年より現職。著書に『変革するマネジメント』(千倉書房)、『歴史でわかる!リーダーの器』(産業能率大学出版部)など多数。

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