カジノ発祥の欧州、市場縮小が進むワケ

地方都市が目指すIRは、欧州から学べる

一定の寡占化が進んでいるにもかかわらず、カジノ事業者も米国やアジアと比較すれば小粒です。上場企業の最大手でもカジノ部門の売上高は300億~400億円の規模感です。本連載のマカオ、シンガポール、米国で紹介した大手事業者と比べれば、規模は1ケタ小さい感覚です。

欧州では米国やアジアの先進国とは対照的に、オンラインギャンブル(ロッタリー、スポーツなどへのベッティングが主体)の合法化が進んでいます。欧州のオンラインギャンブル市場は約1.5兆円(2013年)と、総ギャンブル市場の13%を占めました。このうち、オンラインカジノは約3000億円です。オンラインカジノは新市場を生み出すことも事実ですが、陸上施設型カジノの市場への打撃となっていることも間違いありません。

クラスター効果、複合施設効果が発現せず

 欧州のカジノ市場が小規模である背景には、さまざまな要因があると思います。米国、アジアはそれまで禁止していたカジノを解禁し、ゼロから制度設計し、戦略的に産業として育成しました。一方、欧州はカジノの長い歴史を背負い、戦略的に育成する機会を持てなかったとも言えます。

重要なポイントは、欧州では、米国やアジアのようにカジノの収益力を集客力にフィードバックさせる仕組みが構築されなかったことです。米国やアジアでは、行政側が施設の設置場所と量を適正コントロールする一方、カジノ売上税を低く設定し、事業者に再投資余力を与えました。そして、ラスベガスやマカオのようなクラスター効果、シンガポールのIRに代表される複合施設効果を創出したわけです(ただし、米国は2000年以降、過当競争に陥った)。

欧州においてカジノ市場育成を困難とした背景は、①欧州全体で多数(500施設以上)の小型のカジノが分散して存在する、②各国でカジノ施設外に、スロットアーケード、パブ、カフェなどにゲーミングマシンが広く普及(合計200万台ほど。米国全体でもスロットマシンは100万台ほど)、③行政側が事業者に対して高いカジノ売上税を設定(平均すれば、グロスゲーミングレベニュー、GGRに対して50~60%)――などです。

 ラスベガス、マカオの成功の大きな要因は、クラスター効果(集積効果)です。多数の事業者、施設を特定エリアに集積させた結果、エリア全体としての魅力が増幅し、集客力(顧客数とエリア内の回遊性)が高まります。事業者は収益性が高まり、また事業者間の競争が活発することから、一段とコンテンツやサービスを改善させる投資が増加します。また、多数の施設が存在するために、施設のスクラップ&ビルドも容易となり、つねにフレッシュな魅力をキープできます。この「集客力向上→収益力拡大、競争活性化、投資増加→集客力向上」のサイクルがまさに循環するわけです。

一方、複合施設効果は、まさに、シンガポールに代表されるIRのメカニズムです。事業者はカジノの大きな利益を保証された場合、カジノ以外の多様なエンターテインメント、アトラクション、ホスピタリティ、MICEに対して多額な投資を行い、競争力あるサービスを提供できます(よいサービスを低価格で提供)。事業者はノンゲーミング施設を集客エンジンの位置づけ、カジノで集中的に収益を稼ぐことができます。カジノの大きな利益を保証する手段は、市場における施設数を少数に制限することです。

日本の地方型IRは欧州から学べる

IR議連(国際観光産業振興議員連盟)は2013年11月に「IR実施法に関する基本的な考え方」をまとめています。そこでは、IRの区域、施設の総数を限定するという考え方とともに、「大都市型」と「地方型」の2つの類型を想定すると記述されました。

地方型IRが欧州のカジノリゾートから学ぶことは多いと考えられます。地方型IRも欧州と同様に、クラスター効果や高いレベルの複合施設効果は期待できません。むしろ、欧州のカジノリゾートのように、地域に溶け込み、地域を発展させることが求められます。

日本のIR実現プロセスでは国が自治体から提案を募集し、国が自治体を選別します(2015年後半から2016年)。その後、自治体が事業者を選択することになります。多数の自治体が国に提案すると予想されます。自治体はIR設置区域の開発だけではなく、いかに周辺エリアを含めた自治体全体のコンテクストを構築するかが勝負となります。

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