27歳で急死「天才ロッカーたちの礼賛」に異議あり 才能と可能性を備えた人間だから傑作が生まれた

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悲劇の象徴としてロマン化され、ファンに崇められる存在。「苦悩するアーティスト」。遺書にあった「消えていいくらいだったら燃えつきるほうがいい」という言葉は、引用されすぎるくらい引用されてきた(彼が書いた文章だと思っている人もいるようだが、実はニール・ヤングの歌詞の引用だ)。コベインの死は、その音楽と同じくらいいくつもの波紋を呼んだ。(165ページより)

コベインは自殺やアルコール依存症の発生率が高いことで知られるワシントン州アバディーンで育ち、そのことがのちに暗い影を落とすことになった。

幼年時代は聡明で明るく愛らしい子どもだったが、2歳半から3歳になったあたりで多動症の問題が表れはじめた。そして9歳のときに、両親が離婚。“普通の家庭”を失ってからは感情を昂らせるようになった。

増大する不安やパニック感を和らげるためマリファナに頼り、母親から精神的虐待を受け、さらには生涯にわたって原因不明の胃痛に苦しめられていた。その痛みを和らげるためヘロインに走ったという説もあるが、高校を出たあとの生活は貧しくみじめなものだった。

ニルヴァーナの成功がもたらした違和感

しかしそんななか、同じように人生への不満を抱えていた若者たちのコミュニティができあがり、「社会的にも政治的にも自分の気持ちを代弁してくれた」パンク・ロックと出会い、バンドを結成した。それがニルヴァーナだ。

大きな契機となったのは、シングル「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」を生み出した1991年のメジャー・デビュー・アルバム『ネヴァーマインド』の成功だった。これを契機として、ニルヴァーナはその名を轟かせるバンドとなったのだ。

だが急激な成功は、彼を困惑させもしたようだ。なにしろ環境が激変してしまったのだから、無理もない話ではある。そうでなくとも、彼には背負い続けている数々のトラウマがあったのだし。

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