27歳で急死「天才ロッカーたちの礼賛」に異議あり 才能と可能性を備えた人間だから傑作が生まれた

拡大
縮小

シモンズ氏は、「27クラブというフレーズに問題がある」と指摘している。この「クラブ」のことを、プライベートで、閉鎖的で、メンバーズ・オンリーな、あたかも高級クリエイティブ・クラブ「ソーホー・ハウス」のような調子で口にすること自体が間違っているのだと。

27クラブという呼称のイメージ

たしかに「27クラブ」という名は、あたかもそれが特別なものであるような印象を与える可能性がある。だが忘れるべきでないのは、そのクラブが現実に起きた死を語っているものだということだ。

しかし当然ながら、死は「クラブ」であるべきではない。にもかかわらず、そのクラブに所属する人々は“ひとくくり”にされているのである。

私たちは愛するものを萎れる前に捨てたがる。それがアメリカのポップ・カルチャーの心理学だ。まだ二十歳を越えたばかりのブランド・ニュー・スターのレコードや映画を手に入れ、次の金でタブロイド紙を買い、彼らの中毒症状や離婚や肥満や鬱状態や自殺の記事を読みあさる。おだてあげろ、そして、叩き落とせ。(「イントロダクション」より)

それは物事の本質ではなく、単なる断片だ。シモンズ氏も、27クラブを考えることは、「ひとりひとりの経験がどれほどユニークで計り知れないかを受け入れること」だと主張している。

他人の痛みを理解し、どうしてその人が説明のつかないことをするような状況へ追いやられたのかを理解することだと。

たとえ成功の頂点に登りつめ、心から愛してくれる友人やファンに囲まれていても、実にさまざまな理由で、ほかの人が感じないような孤独を感じる人間は存在する。まわりに人がいてもいだいてしまう、逆説的な孤立感。私にはそんな経験はない。しかし、同じような立場にいる多くの人間がそういう経験をしている。
私にとっては、それこそが27クラブだ。(「イントロダクション」より)

ロック・スターに影響を与えた“環境”

27クラブが話題にのぼるとき、最も頻繁に言及される存在として、シモンズ氏はカート・コベインの名を挙げている(日本では「コバーン」と表記されることが多いが、本書では実際の発音に近い「コベイン」が用いられている)。

アルバム『ネヴァーマインド』で大成功を収めたニルヴァーナのヴォーカリスト兼ギタリスト。ファッション、発言、刹那的な人生観などによって多くの若者の共感を呼んだが、1994年4月5日に27歳で自死した。

次ページ悲劇の象徴としてロマン化され、ファンに崇められる
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT