27歳で急死「天才ロッカーたちの礼賛」に異議あり 才能と可能性を備えた人間だから傑作が生まれた

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慣れるのはきっとたいへんだったにちがいない。『ローリング・ストーン』誌のインタビューで、コベインはこう語っている。「あんなに急に成功するなんて、突然自分の乗ってる車がフェラーリだってことを発見して、アクセルペダルが瞬間接着剤で床にくっついて離れないことに気づく、みたいな感じだったよ。友達は、あいつら、ちゃんとやってるのか、ってバンドのことを心配してたしね」。(176ページより)

同世代の苦悩を代弁する人間としての役割を担わされたことに、コベインは戸惑い、抵抗を感じた。

それは、はるか上の世代にあたり、名声を得ることを原動力にしてきたシモンズ氏にとっては理解しづらいものだったようだ。

だが、下の世代も同じことを感じるとは限らない。コベインはその象徴的な存在であり、旧来的なアメリカン・ドリームのようなものに居心地の悪さを感じていたということだ。

成功に必要不可欠なものではない

そして結果的に――この文章はバイオグラフィではないので詳細な記述は省くが――精神的に追い詰められたコベインは、シアトルの自宅で命を落とす。死因はショットガンでの自殺で、血中からは高濃度のヘロインとバリウムが検出されたという。

このことに関連し、シモンズ氏は疑問を投げかけている。

たしかにコベインはすばらしいロック・ミュージックをつくり出し、そして苦悩してもいた。だが、「苦悩したからすばらしいロック・ミュージックをつくり出したのだろうか?」と。

実際にはそうではないだろう。なぜなら、よい音楽をつくるために、よい芸術をつくり出すために、伝説的なステイタスを得るために、コベインが抱えていたような個人的な事情が必要だというわけではないからだ。“それ”は、成功に必要不可欠なものではない。

私は信じている。ほかの誰かが同じような個人的事情を抱え、同じような苦悩を感じ、同じようなドラッグをやったとしても、平均以下の音楽しか作れなかった可能性は十二分にある――誰の魂にも訴えかけず、どんな経験にもよりそえないレコードしか作れなかったかもしれないではないか。私たちのヒーローの多くが同じような道をたどって苦しい人生を送ってきたせいで、痛みや病は天才性と容易に関係づけられてしまう。しかしそれは偶発的な関係であって、因果関係ではない。(187〜188ページより)
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