日本とコロナ、改革すべきは医療制度と財政政策 欧米よりコロナ被害は小さいのに対策が非効率

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先進国の中では、2020年の日本は死亡率、経済への直接的ダメージは国際的にみると小さかったにもかかわらず、コロナ対策に多くの財政支出を投じた。しかし、その経済活性化への効果は小さく、また医療態勢などの構造的な問題が顕在化したといわざるをえない。

世界を見ると、医療提供体制を思い切って機動的に工夫している国や、効果的な未来に結びつく経済対策を実現している国も存在する。今後、こうした構造問題への対応や政策の巧拙の差が、国力の差にいっそう影響する可能性があり、早期の改革、改善が必要である。

医療体制を抜本改革、財政出動に長期的視野を

国際比較で明らかになった日本のコロナ対応で解決を急ぐべき課題として、以下の2点を挙げる。

第1に、顕在化した医療提供体制の問題を抜本的に解決する必要がある。デジタル化を徹底的に進めて医療機関や病院間のデータ連携を平時から強め、緊急時に機動性が確保できる体制を構築すること、ワクチン開発への支援と接種のスピードアップが必要である。

第2に、財政支出の工夫、ワイズスペンディングが重要である。企業や人々を支援する際にも、ドイツのいち早いグリーン化への対応にみられるような、アフターコロナの社会への視座を持ち、長期的に人々の生活再建や経済復活に結びつく効果的な財政支出を実行することが望まれる。

コロナによって深刻化した構造問題へのより長期的な課題としては、格差の縮小と公的債務拡大への対応が重要である。今後の経済復活に必要な財源を確保するには、格差に配慮した税制の再設計が必要であり、そのうえで長期的には財政の正常化を実現していくことも求められる。

国際的にも法人税の最低水準に合意する動きがある。日本でも、富裕層の金融所得税強化などを含めてコロナ後の税体系を再考すべきである。

一方で、人々の意識変化などコロナで芽生えた変化も見られる。日本がこれを生かし、コロナ禍を乗り越えて経済を復活させつつ、私たちが豊かさを感じられる社会に変えるには何が必要か、次回のコラムで述べたい。

翁 百合 日本総合研究所理事長/ NIRA総合研究開発機構理事

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おきな ゆり / Yuri Okina

京都大学博士(経済学)。1984年日本銀行入行、1992年 日本総合研究所に移り、 2018年から理事長。この間、慶應義塾大学特別招聘教授、株式会社産業再生機構非常勤取締役兼産業再生委員、規制改革会議・健康医療ワーキンググループ座長 などを歴任。現在、未来投資会議・構造改革徹底推進会合「健康・医療・介護」会合会長、金融審議会委員 、総合研究開発機構(NIRA)理事 などを務める。内閣府「選択する未来2.0」懇談会座長。著書に『金融危機とプルーデンス政策』(日本経済新聞出版社)、『不安定化する国際金融システム』(NTT出版)、『国民視点の医療改革』(慶応義塾大学出版会)など。

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