観光列車のルート変更も?長崎新幹線の「光と影」 経費節減で非電化方針、「36ぷらす3」に影響

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同時にJR九州は、新幹線開業に合わせて長崎県内を走る新たな観光列車の導入を検討している。実現すれば、この観光列車が36ぷらす3に代わって肥前浜駅に乗り入れるかもしれない。

肥前浜宿水とまちなみの会のスタッフはこう話す。「36ぷらす3に引き続き乗り入れてほしいが、私たちで決められる話ではないので、どうすることもできない。でも、新しい観光列車がやってきたら全力で応援する」。

一方で、非電化となる肥前浜―諫早間は深刻だ。電車から置き換えられるディーゼル車は速度が遅く、長崎本線に乗り入れできない可能性があるのだ。そのため利用者は途中駅での乗り換えを強いられることになる。JR九州が開発し佐世保線などで運行するディーゼルと蓄電池のハイブリッド車両「YC1系」なら乗り入れ可能ではという声も地元住民の間で聞かれるが、JR九州は「運行ダイヤに関することはまだ決まっていない」という。

並行在来線を「影」にするな

JR九州は肥前山口―諫早間について、新幹線開業から3年間は「一定水準の列車運行のサービスレベルを維持する」としているが、博多と長崎を結ぶ都市間需要が特急から新幹線にシフトするため特急本数は大幅に減る見通しだ。そうなると、この沿線の住民で特急を利用する人にとっては大幅な不便を強いられる。そもそも、JR九州は3年間という期間を区切っているため、その後のサービス水準が切り下げられる可能性も捨てきれない。

2022年度の開業を控え、西九州新幹線長崎駅はすでにほぼ完成した部分もある(記者撮影)

並行在来線の沿線の人たちにとって、新幹線は普段使っている在来線の利便性を低下させる諸刃の剣だ。むしろ、ルートが離れていて新幹線のメリットを得られないこのエリアの利用者にとってはマイナスでしかない。それならせめて、新幹線効果が全国から多くの観光客をもたらすことを期待したい。

「新幹線の光と影」という言葉をよく聞く。新幹線開業に沸く街と取り残される街を光と影にたとえたものだ。しかし、並行在来線を絶対に「影」にしてはいけない。JR九州は新幹線開業で九州全域を輝かせる責任がある。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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