1938年創業の紀文食品が今になって上場した理由 堤裕社長「企業価値を高め社員に喜ばれる会社に」
長田:ヌードルといえばすぐに 思い浮かべるのが日清食品の「カップヌードル」です。カップヌードルはキッコーマンと並び、海外市場を制覇した日本食品の代表例です。このような海外進出で先輩に当たる日系食品メーカーと紀文は、競争戦略において、どこに違いがあるのですか。
堤:当社が得意とするのは、高い鮮度を保った状態でお客様に買ってもらうチルド製品(食品)です。この生産システムに当社の高度な製造ノウハウが集積されているので、強い競争力を発揮しているのです。香港では水産練り物製品の市場でシェア50%を占め成功しております。日本と同じように鮮度のよさを強調する日本的ビジネスが通用したわけです。
しかし、グローバルでは物流網の整備も必要でこの方法が通じるかどうかは今のところ定かではありません。そこで、常温の売り場で販売できるヘルシーヌードルをグローバル化の先兵として、まずアメリカの市場に向けて打ち出したのです。“KIBUN”(紀文)のブランドが認知された段階で、将来的にはチルド製品のローカルマーケットへの本格的導入を考えてもいいかもしれません。
長田:海外事業強化に加えて、生産設備刷新による効率化も上場の目的としていますが、これにより、どのような効果が期待できますか。
毎日来る注文に合わせられる生産方式を駆使
堤:トヨタ生産方式を異業種にも取り入れるため40年前に発足したNPS(ニュー・プロダクション・システム)のもとで、当社もカンバン方式を導入しました。ここで生み出されたチルド製品の生産技術は、大量生産した商品を在庫として持つのではなく、注文が来たら、その日のうちに製品を作り、すぐに出荷するという方法です。
つまり、毎日、営業から来る注文に合わせられる生産方式を駆使しているわけです。足元の市場でしか売れないという水産練り物製品の常識を覆して全国で展開できたのも、昭和30~40年代にかけて、チルド物流網を全国に着々と構築してきたからです。国内市場においては、これが当社の強みになっています。
長田:コロナ禍のもと、コンビニへのおでん納入などのマイナス面、家飲みをはじめとする巣ごもり需要というプラス面の両現象が見られたようですが、そもそも、水産食用加工品全体の生産量がここ10年で18%減少しており、紀文の看板商品である練り物もほぼ同じぐらい(17%)減少しています。こうした市場の構造的な落ち込みをどう見ていますか。高齢社会、健康志向などを背景に見直される要因はあるのでしょうか。ピンチをチャンスに変える戦略は?
堤:かつて水産練り物製品を扱う企業は国内に3000~4000社ありました。しかし、寡占化が進み、現在では上位10社で全国の売上高の約7割を占めるという状況で、さらにそれぞれの地域にトップ企業がいます。関東圏では紀文と認識しております。 今後も戦い続けるために設備を刷新し生産コストを下げる。そこで出た利益を海外で使う。この好循環を展開していきたいと考えています。
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