攻めのLNG調達が東京ガスの転機に 東京ガスの村木茂副会長に聞く(後編)

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村木:僕はみんなの前であいさつをするとき、同じことを繰り返し言います。前と同じことを話すのはよくないと変える人がいますが、僕は愚直に自分の思うことを繰り返し、繰り返し伝えます。そのほうが浸透します。格好よくやる必要は全然ありません。

三宅:意外にみんな聞いていないんですよね(笑)。DI代表の堀紘一も、同じことは7回言わないと伝わらないとよく申しております。

村木:伝えるべきことを繰り返し伝えるのは、大事だと思います。でも、伝えるべきことを変えないといけないときもあります。そのときは、ちゃんと理由を説明します。

三宅:なるほど。いつのまにか変わっていた、というのはよくないということですね。

チーム作りの基本とは

三宅:では、最後に、これから挑戦しようとしている若い人たちへのメッセージをお願いします。

村木:ひとつは、先ほどのThink globally, act locallyをしっかり考えてほしいですね。もうひとつは、自分自身がエネルギーを持ち、energize others、つまり他人も元気にしてほしい。これってけっこう大変なんですよ。

三宅:自分だけ突っ走るのではなく、他人も元気にする。簡単ではなさそうですが。

村木:そのために絶対にやらないといけないのが、コミュニケーションです。僕は営業のとき、スマイル&コミュニケーションを実行しようと言いました。難しい顔をしてコミュニケーションしてもしょうがない。笑って、もっと気楽に互いの意思疎通を図っていくことが大事です。スマイル&コミュニケーションは、他人を元気にする、他人を巻き込んでいくツールだと思っています。

三宅:スマイル&コミュニケーションのためには、自分が元気であることが前提になる気がします。

村木:そうですね、自分が元気であることと、相手のことを考えること。あと、ギブ&テイクも考えたほうがいいですね。相手に何かバリューを与えることによって、自分もバリューがもらえるわけです。基本的に、これまでユーティリティ業界の人は、相手のことを慮って何かやろうというセンスはあまりなかったのではないかと思うのですよ。

三宅:それは社内でもおっしゃっていることですか?

村木:はい、言っています。まずフェースtoフェースのコミュニケーションをしなさいと。要するにパソコンを通じてではダメ。それから、相手から何かを引き出すとか、自分の話を理解してもらうためにはスマイルが大事です。議論するときは別としても、話をするときはニッコリする。するとお互いが自分の持っているものを出し合えるようになります。

三宅:確かに、村木さんは怖い人だと思っていましたけど、にこやかにお話をされますよね。吸い込まれそうです(笑)。

村木:実は、僕は入社2年目からずっと、会社の応援団をやっているんですよ。都市対抗野球のときなんかに応援するやつです。初めは1974年に研究所にいたとき、人事から人を出せという話があって、「ひとり、力の余っているやつがいる」と、僕が行かされました(笑)。大卒は僕だけで、ほとんどの事業所は高卒の若い人を出してきましたが、その現場の人たちが面白くてね。当時は大量採用していたから、会社に雪駄とアロハで来るとか、酒を飲むとケンカするとか、いろいろな人たちがいたのですよ。

僕はその頃、東大の水球の監督もやっていたから、しょっちゅういなくなって、研究所の上司に怒られてました(笑)。でも現場の連中とは仲良くなって、彼らの思っていること、考えていることがわかるようになったし、同じ目線で話ができるようになりました。特にリーダーは、現場の人も含めてメンバーの気持ちをわかっていないといけませんよね。結局、原料部時代には応援部長までやりました。スマイル&コミュニケーションの重要さを学ぶ、非常にいい経験になりましたね。

三宅:応援部長、兼、原料部長だったわけですね(笑)。そして水球の監督。チーム作りという観点から、仕事以外でも随分いろんなことをやってきたのですね。

村木:チーム作りは組織として何を目指すのかというビジョン、戦略をしっかり作っていくのが基本だと思います。そして組織の中では、スマイル&コミュニケーションを実行する。特効薬があるわけではなくて、そういうことを地道に繰り返してやっていくことが重要だと思うのですよ。

三宅:組織を組織として機能させるためには、当たり前のように見えることを着実にやっていくことが大事ということですね。今、村木さんから見て、東京ガスの組織の面で何か課題はありますか?

村木:危機感を持つことだと思っています。このままじゃダメだという危機感や問題意識がないと、物事はなかなか変わっていきません。だから、外部の環境の変化をきちんと見たうえで、組織のビジョンとか、なぜこういうことをやらないといけないのか、今なぜこれを変えるのか、みなさんに納得感のある形で、腹落ちして動けるようにすることが大事だと思います。

三宅:村木さんの行動原理がとてもクリアになりました。今日は本当にありがとうございました。

(構成:仲宇佐ゆり、撮影:今井康一)

三宅 孝之 ドリームインキュベータ執行役員

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みやけ たかゆき

京都大学工学部卒業、京都大学大学院工学研究科応用システム科学専攻修了(工学修士)。経済産業省、A.T. カーニー株式会社を経てDIに参加。経済産業省では、ベンチャービジネスの制度設計、国際エネルギー政策立案に深く関わった他、情報通信、貿易、環境リサイクル、エネルギー、消費者取引、技術政策など幅広い政策立案の省内統括、法令策定に従事。DIでは、産業プロデュース事業を統括し、環境エネルギー、まちづくり、医療などを始めとする様々な新しいフィールドの戦略策定及びプロデュースを実施。また、個別プロジェクトにおいても、メーカー、IT/通信、金融、エンタメ、流通、サービスなど幅広いクライアントに対して、新規事業立案・実行支援、マーケティング戦略、マネジメント体制構築など成長を主とするテーマに関わっている。

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