攻めのLNG調達が東京ガスの転機に 東京ガスの村木茂副会長に聞く(後編)

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村木:そうですね(笑)。そうして上流の権益を取るというビジネスの流れができていきました。ただ、われわれが投資できる環境が整っている国は極めて限られています。その中でオーストラリアを選んできましたが、最近は人件費などのコストが上がってきているので、後から出資したプロジェクトのリターンは厳しくなっています。

三宅:どの世界でもそうですが、やはり最初にやるのが重要ですね。

村木:何か新しいことを始める意識は必要だと思います。それと、環境の変化に合わせて見直すことですね。今後はますます変化が激しくなっていくし、われわれ自身もグローバライゼーションしていかないといけない時代です。Think globally, act locallyが非常に重要です。特にエネルギー産業はグローバルマーケットでものが動いています。でも実際はわれわれのローカルなところでどうするかが大事なのですよ。

三宅:なるほど、そうですね。

村木:外の動きをきちんと見ながら、自分たちの仕事をやっていく。もともとガス会社はThink locally, act locallyで、自分たちのエリアの中だけで勝負すればよかった。しかし、これからは、成熟した日本の市場で成長していくのは非常に難しい。となると、ひとつの手段は海外に出ていくことです。われわれも2020年には利益の4分の1を海外にするというビジョンを掲げています。エネルギーはグローバルなプロダクトだから、Think globally, act locallyができる人材を増やしていかなくてはなりません。

三宅:東京ガスはもともとローカルな会社で、商社と組んで原料を調達していましたが、村木さんが原料部に行かれてから、どんどん海外に出ていきましたね。まさに、Think globally, act locallyの実践ですね。

伝えたいなら、何度も何度も、繰り返し言う

三宅:さて、村木さんは副会長になってからも、マレーシアやアメリカに行ったり、モスクワで国際会議に参加したり、今や日本のエネルギー業界の顔になっています。今後、やりたいことはありますか?

村木:今、内閣府が立ち上げた「戦略的イノベーション創造プログラム」のエネルギーキャリア分野で、プログラムディレクターを務めています。クリーンで経済的なエネルギーとしての水素の製造、輸送、貯蔵、利用、社会への導入まで、国の研究開発をみる立場です。思ったより大変ですが、非常にやりがいのある仕事だと思っています。まさに国のためになるので、これは最後の御奉公のひとつとしては面白いと感じています。今まであまり接点のなかった大学の研究者、プラントの開発者の話を聞いたり、議論したり。刺激的ですよ。久しぶりに一生懸命、勉強しています。

三宅:われわれも、水素はだいぶ前から面白いと思って注目していました。いろいろなプレーヤーがいるけど、なかなか中核の方がいらっしゃらなくて困っていたので、村木さんの登場に水素業界は沸いていきそうです。

村木:日本もいい研究をしているのだけど、大学の先生の世界と企業の世界がうまく結び付いていないのです。そうすると、いいものを一生懸命開発しても出口につながらない。これをきちんとつなげるのが僕の大きな仕事です。

三宅:天然ガスでバリューチェーンをつないだ村木さんがやるからには、何かが起こりそうな気がしています。

ところで、村木さんは、人を巻き込んでプロジェクトを実現させていくときに、気をつけていることはありますか?

村木:「組織は人」が私の信念です。組織の形より、いかに人をうまく配置して、その人たちが力を発揮できる流れを作っていくかが大事です。われわれは創立129年の古くて大きな組織なので、組織の形や方向を変えるのはかなりの力仕事です。だから、どういうことを何のためにやるのか、戦略をできるだけ見えるようにして、それに賛同する人間をうまく動かしていかないといけない。当然、反対する人もいるし、いろいろな意見があります。それを捨てるのではなく、聞いて、きちんと説得するのです。

三宅:なるほど。

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