ECB、18年ぶりの戦略修正は「ハト派」へのシフト ラガルド総裁はあえて答弁で曖昧さを残した

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別の記者からも、「容認する(tolerating)と目指す(targeting)は全然違うものです。ECBがより高い物価上昇率について、目指すのではなく容認するということは、2%からのオーバーシュートは目標ではないということでしょうか」という質問が出た。ここでもラガルド総裁は上述の趣旨を繰り返すだけで、有益な情報は示さなかった

さらに、また別の記者から、「いまだに物価目標のオーバーシュートが目標なのかどうかわかりません。ECBは中期的に物価目標をオーバーシュートさせることにコミットしているのでしょうか。それとも低インフレに対するECBの政策対応の1つの結果としてオーバーシュートするにすぎないということでしょうか。そこをクリアにすることが大事です」と繰り返し質された。記者たちはオーバーシュートを目指すのかどうか知りたかったわけだが、そこは判然としない。

率直に言って、今回の物価目標の修正はかなりわかりにくさをはらんでいる。似たような質問が相次ぐのは、その意図が伝わっていない証左である。普段、ECBを精査している記者たちがそう感じるのだから、金融市場全般にとっては推して知るべしである。いかに解釈すべきなのかという議論が、今後も市場で継続してくすぶるのではないか。

ハト派的修正であることは確か

しかし、総じていえば、今回の修正がハト派的であることは確かだろう。旧来の物価安定の定義「2%未満であるがその近辺」では2%からオーバーシュートする余地が皆無だったのだから、それが容認する(tolerating)のであろうと、目指す(targeting)のであろうと、ECBがより物価上昇に寛容な中央銀行に生まれ変わったことは間違いない。市場参加者としてはその点さえ押さえておけばよいだろう。

そのほか気候変動にかかる論点についても相応に話題性を帯びるものだが、こちらの議論は別の機会に譲りたい。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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