ECB、18年ぶりの戦略修正は「ハト派」へのシフト

ラガルド総裁はあえて答弁で曖昧さを残した

各種メディアのヘッドラインは今回の戦略見直しについて、こぞって「物価目標引き上げ」と報じた。わかりやすく端的にいえば、今回の修正では「対称性(symmetry)」の論点が明示されたことが重要である。前の物価目標の定義は「中期的に2%未満であるがその近辺(below, but close to, 2% over the medium term)」とされ、これには暗に「2%には届かないほうがよい」というニュアンスも含まれ、あくまで「物価は上昇するもの」という隠された警戒感が背景にあった。

だが、今や先進国を中心として「物価はなかなか上昇しないもの」という問題意識に切り替わった。「2%未満であるがその近辺」という表現が時代に即しているとは言いがたい。そこで、「物価目標はあくまで対称的(symmetric)である」と修正された。つまり「2%は目指すべき天井ではない」し、「2.5%も1.5%も目標とする2%から乖離しているという意味では等しくリスクである」という考え方が示された。

こうなると2.0%を超えたからといって、すぐに引き締め的な対応を取るとは限らない。公表文では「This may also imply a transitory period in which inflation is moderately above target(これはまた、インフレが目標をやや上回っている一時的な期間を意味する)」と、わざわざ上振れするケースも明記された。そこで、各メディアのヘッドラインは「物価上振れ容認」とか「物価目標を引き上げ」となっているのである。

実際にはドラギ時代からの変化を追認

もっとも、ドラギ前ECB総裁が2019年6月のECB年次総会で「物価目標の対称性を明確化すること(clarifying the symmetry of our aim)」にすでに言及しており、同年7月の政策理事会声明文からsymmetryが登場し、継続的に使用されている。それゆえ、今回の戦略見直しは現状追認であるという印象を筆者は抱いた。

会見でも同様の質問があった。これに対し、ラガルドECB総裁は「たいしたことないという話でしょうか。残念ながら、私はそう思いません。これは大変な変化です(I think it is quite a lot)」と力説した。確かに、明記したことでその意図はクリアになったが、それで実際の政策運営が劇的に変わるということもないだろう。

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