生活保護患者における診療報酬も健康保険等の保険診療と同様の規制を受ける。医療費全額が公費負担という違いだけだ。提供される医療は妥当適切なものでなければならず、入院は療養上必要があると認められる場合でなければならない。
「問題が生じている可能性を指摘された以上、行政は立入検査等を実施し、詳しく調査し、医療扶助の過払いなどの問題があれば適切に対処すべきだ」(朝信医師)。
半数弱が生活保護受給者
2018年7月1日時点で、653床ある報徳会宇都宮病院の入院患者数は486人、そのうち半数弱の228人が生活保護受給者だ。
前編に登場した30代女性のAさん同様、報徳会宇都宮病院には都内など関東各地から生活保護受給者が入院しているが、かねてよりトラブルが頻発している。
精神科医療の問題を取り扱う弁護士、司法書士などのグループ「医療扶助・人権ネットワーク」(代表:山川幸生弁護士)は2014年10月、厚生労働相や東京都知事、栃木県知事などに宛て要望書を提出した。要望の趣旨は、栃木県の精神科病院に入院中の生活保護受給者のうち、長期入院患者についての入院継続の必要性の確認、退院希望者への必要な措置を取ることなどだ。
広く公開された要望書では名前は伏せられたが、この栃木県内の精神科病院とは、やはり報徳会宇都宮病院のことである。
同ネットワークは要望書提出時までの約2年間だけで、報徳会宇都宮病院の入院患者25人の退院に関与してきた。法律家による患者たちへの詳細な聞き取りによって、同院の数々の問題点が明らかとなった。
要望書に付された、同ネットワークがまとめた「報告書」(報告者:後閑一博司法書士)によれば、25人の患者のほとんどすべてが病名や退院時期などを聞かされていなかった。またその多くがオーナーの石川文之進医師の独断で治療方針が決定されていると、下記のとおり証言している。
・オーナーに退院したいと告げると、「病気が治ってないから1年いろ」「農園で金を稼いでから出ていけ」と取り合ってもらえなかった。
・これまで何度も退院したいと言ったが、オーナーからは「2年は入院してもらう。心臓の病気があるので退院できない」と取り合ってもらえなかった。別の医師に心臓の事を聞いたら「別に問題ない」と言われた。
・オーナーに退院の話を持ち掛けたところ、閉鎖病棟に移された。
東京・台東区で生活保護を受けていた当時50代の男性は、区の担当ケースワーカーに連れられて報徳会宇都宮病院に入院すると、朝晩それぞれ16種類16錠の薬を飲まされていて、意識が朦朧となり、歩行すら困難になってしまった。
主治医はオーナーの石川文之進医師で、入院中に病名、治療方針、薬についての説明を求めても回答がなく、薬を減らしてほしいという要望も聞き入れてもらえなかった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら