何より、この作戦の良いところは元手が要らないことである。
やると決めたらただそれだけで、一円のお金をかけずとも、脳内革命により瞬時に世界を一変させることができるのだ。
というわけで、もちろん私はその作戦に出た。
小さな家? いやいやそれが何か?
っていうか、そもそもうち、全然小さくないし! めちゃくちゃでっかいし!
……はい。これが「街がわが家」作戦であります。
古本屋は「本のセレクトショップ」
最初にこの作戦を思いついたのは、ある偶然がきっかけだった。
5年前の冬のある日、会社員という身分を失うことで一気に住まいのランクを落とすという「自分史上最悪の引っ越し」を目前にした私は、どうにも不安を抑えきれずにとぼとぼと近所を散歩していたんだが、そのときふと、とある小さな古本屋に目を留めた。
これがすべての始まりだったのだ。
かねてちょっと気になっていた小洒落た店である。だが入ったことはない。
何しろ当時は本といえば普通の本屋かアマゾンで買うもので、古本屋なんてどうもオッカナイというかハードルが高いというか、何よりそもそも古い本なんて所詮は売れ残りや汚れた廃品の寄せ集めやろという偏見もあり、古本屋そのものがあってもなくてもいいナゾの存在という状態であった。
でもそのときは、まあ疲れてたんですな。何でもいいからいつもと違うことがしてみたかった。それに間もなく高級マンションを追い出されてこの町を出て行かなきゃならん身の上。となればここらを散歩できるのもあと少し。ならば気分転換にいっちょ冷やかしてみるかと思ったわけです。
そうしたらまあ、驚いたね。
なんちゅうキラキラした本の群れやー! ……いや、もちろん古本だからしてくたびれや汚れは当然あるんだが、そういう問題じゃない。タイトルも作者も装丁も、どれもこれも読んでみたい本ばかりではないか。
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