辣腕作家が見たアメリカが「コロナに負けた」必然 マイケル・ルイス氏が失敗の理由に切り込んだ

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未知の感染症が拡大することになる場合に備え、アメリカでは共和党のジョージ・W・ブッシュ(息子)大統領のときに生物学的な脅威に対処するチームが結成された。政権が民主党のバラク・オバマ大統領になっても存続していたが、共和党のドナルド・トランプ大統領になって、チームメンバーは全員が解雇あるいは降格処分となったという。

さらに国土安全保障省には、さまざまな医療上の緊急事態において州政府を支援する任務の人たちが200人近く在籍していたが、トランプ政権はこれを解体したという。コロナウイルスがアメリカに侵入してきたとき、アメリカはすっかり無防備になっていたのだ。

CDCがつねに及び腰だった理由

さらに2020年2月、アメリカ国内でコロナ患者が増えるかどうかが議論されているとき、CDC(疾病対策センター)の担当者は記者会見を開き、コロナ患者について、「この先、同様の症例が発生するかどうかの問題ではなくなりました。いつ発生し、国内でどれだけの人数が重症化するかが問題です」と発言した。

すると株式市場が暴落し、トランプ大統領が激怒したという。以後、CDCのスタッフは恐れをなして口をつぐんでしまう。マイク・ペンス副大統領のオフィスからは、「今後、保健福祉省の誰ひとり、国民を不安にさせるような発言をしてはならない」という命令が出されたという。

今回の感染拡大で、CDCの発表がしばしばニュースになったが、どこか腰が引けた見解が多く、イライラさせられた。本書を読むと、その理由がわかる。CDCは「疾病対策」という名前こそついているが、実際には患者を研究論文の対象としてしか見ていない官僚組織なのだ。

また、現場で奮闘した各地の保健衛生官たちは、外出禁止令を出したために命を狙われたり、マスク着用命令を出したことで仕事を追われたりしている実態が描かれる。

しかし、問題はトランプ政権だけではなかった。民主党の知事がいるカリフォルニア州でも、自分の地位が脅かされることを恐れた幹部によって、対策が進まなかったのだ。

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