幸せな組織をつくれる人々と不幸にする人々の差 メンバーが周囲に対してどんな影響を与えるか

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この「よい幸せ」の実態を捉えるには、個人のデータに加えて、その人が関わっているまわりの人のデータも取る必要がある。その上で、個人単位と集団単位をあわせて解析する必要がある。これによって初めて「幸せの総量を増やすよい幸せの要因」と「まわりの幸せを犠牲にした悪い幸せの要因」を区別することが可能になる。

実は、この「よい幸せ」を定量化しているのが、前記の「ハピネス関係度」なのだ。

「ハピネス関係度」は、個人ごとにも算出でき、これを集団で集計する(1人あたりの値に平均する)と集団としての「ハピネス関係度」になる。そしてこの個人と集団のハピネス関係度の関係を細かく見ていくと、人どうしのやり取りが、全体の幸せの総量を左右していることがわかる。

職場の幸せは何で決まってくるか

われわれはデータによって、この無意識のよいシークエンスの身体運動がよく見られる人(すなわち個人のハピネス関係度の高い人)の周囲には、幸福度(質問紙への回答から算出したもの)の高い人が多いことを確認した。一方、この個人のハピネス関係度の低い人(よくないシークエンスが見られる人)の周囲には、幸福度(質問紙への回答から算出したもの)が低い人が多いことも確認した。

このために、「ハピネス関係度」の高い組織・集団に属している人は、個人としても幸せになりやすい。「ハピネス関係度」という特徴は、まさに「よい幸せ」のものさしである。だから、職場全体の幸せ(の総量)が、このハピネス関係度によって、9割以上決まるのだ。

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これは組織や社会に大きな意味を持つ結果である。職場の幸せは、職場を構成するメンバーのそれぞれが、周囲の人たちを元気にし、幸せを生んでいるかにより決まるということだからだ。関わる人たちを元気にし、幸せを生むことで自分も幸せになる。ハピネス関係度は周囲の人たちと自身を幸せにしている度合いを表しており、これを組織全体で集計することで、組織の幸せの総量がわかるのである。これをシンプルにいうと、

☆組織の幸せは、メンバーが周囲を元気に明るくしているかで決まる

となる。人が周囲を元気に明るくするというのが、集団の幸せの最も基本的な構成要素である。「情けは人のためならず」「汝の隣人を愛せ」など、周囲を幸せにすることの大切さを説く古今東西の金言が、データにより確認されたともいえるだろう。

矢野 和男 日立製作所フェロー、ハピネスプラネット代表取締役CEO

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やの かずお / Kazuo Yano

2004年から実社会のデータ解析を先行。論文被引用件数は4500件、特許出願350件を越える。『ハーバードビジネスレビュー』にて、開発したウエアラブルセンサが「歴史に残るウエアラブルデバイス」として紹介される。開発した多目的AI「H」は、物流、金融、流通、鉄道などの幅広い分野に適用され、産業分野へのAI活用を牽引した。2020年に「ハピネスプラネット」を設立し、代表取締役CEOに就任。博士(工学)。IEEE Fellow。電子情報通信学会、応用物理学会、日本物理学会、人工知能学会会員。東京工業大学情報理工学院特定教授。国際的な賞を多数受賞。著書に『データの見えざる手』『予測不能の時代』(草思社)など。

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