7月1~7日、歴史に埋もれた政治めぐる「名言7選」 一日一考、日本の政治について考える
谷崎由依(たにざき・ゆい/1978‐ /作家)
女工たちはこの街を支える産業の象徴であり、と同時に街の者たちからすれば、こころのどこかで認めるのを拒みたいものなのだ。それはすなわち街の産業──羽二重よりもずっと廉価で質のよくない人絹の織物を大量生産し、欧米のような先進国でなく、この日本という国がともすれば下に見ている、劣っていると見下しているアジアのほかの国々に、大量に売りつけ商売をしている、その事実を認めたくないのと表裏一体だった。<『遠の眠りの』(集英社、2019年)>
1928(昭和3)年7月6日、福井に県内初の百貨店が開店した。この百貨店の少女歌劇団に雇われた女工を主人公とする小説の一節。当時の福井は、絹織物の羽二重に代わり、人絹の生産が日本一盛んな街になっていた。その生産に動員されたのが、女工と呼ばれる若い女性たちだった。街の者たち(主に男性)は、羽二重よりも質の悪い人絹を大量生産して収入を得ている彼女らを蔑んだ。こうした非対称の関係は、当時の日本と人絹を大量輸出しているアジア諸国の関係にもそっくり当てはまった。
東京の東部と西部で何が違うか
有吉佐和子(ありよし・さわこ/1931‐1984/作家)
少しずつ私にも選挙用の第六感が養われてきているのか、人の集らないところや、政治に関心の薄い地区というのが予想できるようになっていた。中央線沿線は感度良好で、演説しても反応があるし、拍手が起ることもあってやり甲斐があるのだが、どうもこの辺りには私の小説など読んで下さっているような人々はいないのではないか。<『複合汚染』(新潮文庫、2002年)>
1974(昭和49)年7月7日、第10回参議院議員選挙が行われた。この選挙に東京都選挙区から無所属で立候補した紀平悌子を応援するため、有吉佐和子は東京都内を回ってみて、東部と西部の反応の違いに驚いた。「この辺り」は東部の江東区や江戸川区を指している。一方、西部は自治体名でなく線名を挙げている。無党派市民的な政治風土が中央線の沿線全体に広がっていたために、紀平に対する関心が高かったのがよくわかる。だが結局、自民、社会、公明、共産各党の候補が当選し、紀平は落選している。
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