日本人が知らぬ超難関「ミネルバ大学」破壊的凄み 世界のエリートが熱視線、ハーバード蹴る人も

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世界の異なる文化の諸都市に学寮を設置し、それらの都市の企業やNPOと連携関係を保ちながら、学生たちが諸都市を渡り歩いてフィールドワークを重ねていく。このモデルはどこか、中世西欧の都市ネットワークの上で、ある都市から別の都市へと遍歴していた第1世代の大学の学生たちを連想させる。

中世の遍歴する大学生たちと21世紀のミネルバ大学の学生たちが異なるのは、後者は世界のどこにいてもオンラインの討論型授業により諸分野でエキスパートの教授の指導を受け続けられる点である。このような学びを4年間続けたならば、そこで育った学生は、グローバルな理論的視座や批判的で創造的な知性を備え、さまざまな現地でのローカルな経験を積んだ未来のリーダーとして育っていくであろう。

その際、学生たちは、渡り歩くそれぞれの都市で、大学が用意する学寮に共同で住む。それは単に機能的に必要という以上に、学寮こそがカレッジとしての大学にとって根本的な場だからである。教師と学生の協同組合として出発した大学は、その根を共同の生活の場としての寮に置いている。

知を求めて旅する人々によって大学は創造された

そもそも大学は、知を求めて旅する人々によって創造された。旅人たちは都市に住み、生活を支え合いながら学知の空間を創造した。

『大学は何処へ 未来への設計』(岩波書店)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

移動の自由と学問の自由は不即不離で、この二重の「自由」を可能にする場が都市だった。ところが、中世のペストから今日のコロナに至るまで、感染症パンデミックは、この移動の自由を何度も危機に陥らせてきた。

それでも人類は旅することをやめず、自由の知を希求し続けるのもやめなかった。今日、移動の自由と知の探究はまさに地球社会規模で行われており、それがゆえに目下のコロナ危機の衝撃も大きい。

しかしこの衝撃は、短期的視点ではなく、数百年の都市と大学の関係史のなかに位置づけ直されなければならない。

オンライン上でのさまざまな大学の取り組みも、まさにそうした数百年の移動と越境、交渉や対話とそれらの封鎖、監視と隔離の歴史のなかに位置づけ直すとき、新たな歴史的含意を浮上させるはずである。

吉見 俊哉 東京大学大学院情報学環教授

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よしみ・しゅんや / Shunya Yoshimi

専攻は社会学・文化研究・メディア研究。1957年東京都生まれ。1987年 東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。東京大学新聞研究所助手、助教授、東京大学社会情報研究所教授を経て、組織統合で2004年より東京大学大学院情報学環教授。2006~2008年度に東大大学院情報学環長・学際情報学府長、2009~2012年度に東大新聞社理事長、2010~14年度に東大副学長、同教育企画室長、同グローバルリーダー育成プログラム推進室長、2010~13年度に東大大学史史料室長、2017年より東京大学出版会理事長などを歴任。2017年~18年にハーバード大学客員教授として同大学大学院及び学部で教える。

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