余命意識する人の最期支える「人生会議」のリアル 患者が望む医療・ケアの優先が一層求められる

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幸子さんは、同院皮膚科にすぐに入院し、抗がん剤を用いた化学療法を開始したが、呼吸困難の状態が悪化したことから、岩瀬氏が率いる緩和医療科の緩和ケアチームが介入し、ACPを開始した。

ACPのプロセスの中で、▽医学的適応▽患者の意向▽QOL▽周囲の状況―の4つのポイントが繰り返し話し合われた。「医学的適応」では、治療の目的は何か、治療が成功する確率などがテーマになった。「患者の意向」では、幸子さんに判断能力はあるか、幸子さんに治療の利益とリスクが説明され、それらを理解しているか、といったことが問われた。

「QOL」では、治療をした場合としなかった場合に、通常の生活に復帰できる見込みはどの程度かなどが課題になった。「周囲の状況」では、治療の決定に影響する家族の要因はあるか、幸子さんに経済的要因があるかなどのほかに、思想的・宗教的要因があるかなどが話し合われた。

幸子さんはその後、入退院を繰り返し、化学療法を再開したり、放射線治療もスタートしたりした。その間にも、幸子さんの意向などが何度も確認され、2020年5月には放射線治療を中断、幸子さんが在宅医療を希望したので、自宅での療養に移行し、訪問看護や訪問診療に切り替えた。

幸子さんはその1カ月後、家族に見守られながら亡くなった。家族からは「(患者と)一緒に過ごす時間を持てました。家に帰る決断をしてよかった」との声が届いた。

いつ亡くなってしまうかわからないからこそ在宅

岩瀬氏は主治医の「患者さんがいつ亡くなってしまうかわからないから入院が必要だ」という言葉に違和感を覚えるという。岩瀬氏は、「いつ亡くなってしまうかわからないから在宅なのだ」と繰り返す。

また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で入院患者への面会制限があるため、いったん入院すると患者家族が面会に訪れにくくなる。そのために、残された時間が短い患者ほど、在宅で有意義な時間を過ごすことが大事になってきているというのだ。

岩瀬氏は現在、高齢患者の退院後の日常生活の中で生じる基本的な動作を意味するADL(Activities of Daily Living)を定期的にモニタリングして、ADLが低下した際、地域で適切な介護を受けられるよう介護サービスに円滑につなげる取り組みを推進している。退院した患者のADLの状態を、介護サービスのスタッフなどを通じてチェックするよう努めている。

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