余命意識する人の最期支える「人生会議」のリアル 患者が望む医療・ケアの優先が一層求められる
患者の価値観に合った適切な治療法を提示したり、最期を過ごす場所はどこがいいのかについて、患者のほかに家族に希望を聞いたりする。また、将来に対する恐れや不安を明らかにするだけでなく、心理的なサポートをすることなどが手順として挙げられている。
一方で、介入するだけではなくて、「患者や家族の心配が軽減できているかどうか」「患者の人生の意義を再定義できているかどうか」「最善の生活の質(QOL=Quality Of Life)が提供されているか」などをチェックすることも必要だとしている。
ACPの特徴は、この手順とチェックを一度で終わらせず、何度も繰り返していくことだ。
NCCNのACPガイドラインに大きく遅れることになったが、厚労省もACPを「人生会議」という愛称に決め、人生会議を進めるための具体的なプロセスを示した。それが、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」だ。
その人生会議のガイドラインでは、まず、本人の意思が確認できる場合と、確認できない場合とを分けている。本人の意思が確認できないならば、家族などが本人の意思を推定するが、それができない場合には医療・ケアチームが本人にとって最善の方針を取ることを基本とするとしている。
人生会議のプロセスの中では、時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更などに応じて本人の意思が変化しうるため、医療・ケアチームが適切な情報提供をすることを前提にして、家族などを含めて話し合いを繰り返すよう求めている。さらに、話し合った内容はその都度、文書にまとめておくことを推奨している。
ACPは、リビングウイル(living will=人生の最終段階・終末期を迎えたときの医療の選択について事前に意思表示しておくこと)と勘違いされるが、岩瀬氏は、「ACPは、プランニングですから、計画ですし、プロセスなのです」と強調する。またACPは終末期のがん患者のみが対象となる印象が強いが、埼玉医科大病院では現状、がん・非がんの割合が4対6で、非がんの患者が増えている。
現場で実践されているACP
ACPの具体的なケースを紹介しよう。
金田幸子さん(70代、仮名)が、皮膚がんの一種である悪性黒色腫(皮膚の色素のメラニンをつくる細胞やほくろの細胞ががん化したものでメラノーマとも呼ばれる)を患っていた。この患者は2016年8月に埼玉医科大病院皮膚科で全摘手術。転移を心配して脇の下のリンパ節を取り除いた3年後の2019年4月の検査では再発・転移はなかった。ところが、同年8月にCT(コンピューター断層診断装置)で肝転移がわかった。
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