余命意識する人の最期支える「人生会議」のリアル 患者が望む医療・ケアの優先が一層求められる

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岩瀬氏には患者が救急搬送されるのは、医療提供者にとって“敗北”との持論がある。「退院後に緊急入院するのは、患者さんが苦しんだ状態で(病院に)帰ってくるので、患者さんの状態管理の面では決していいとはいえません」という。

消防庁がまとめた「救急・救助の現況」調査によると、2019年の年齢区分別の搬送人員の構成比は、子どもや成人が前年比ほぼ変わらずだったのに対して、高齢者は60.0%に達している。20年前の1999年に、高齢者の比率が4割弱だっただけに、急増していることがわかる。そこで、埼玉医科大病院では、救急科と緩和医療科を一つにして、高齢者の救急搬送を減らす取り組みをしている。

同調査の救急搬送を事故種別にみると、高齢者の救急搬送の約8割は、転倒がきっかけだ。この状況は同大病院でも同じで、脱水などを起こして転倒、動けなくなって救急搬送されるケースが増えている。

そういった高齢者の大半は、いわゆるロコモティブシンドローム(運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態)やフレイル(健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態)で、治療しないと命に関わる急性期の病気や外傷があるわけではない。急性期疾患ではないので、入院が必要ない「軽症」と判断して自宅へ帰すと、また転倒したり、急激に体調を崩したりして救急再搬送されるという悪循環に陥ってしまうのだ。

退院後の患者の状態をどうすれば適切に管理できるか

同大病院に2017年に救急再搬送された65歳以上の高齢者の初回搬送時の転帰(病気が経過して他の状態になること)を調べたところ、帰宅が61.6%、入院が36.8%で、帰宅患者の再搬送率が高い結果となった。そこで、同大病院では、救急搬送されてきた高齢者の救急の「入口」を救急科が、救急の「出口」を緩和医療科が、それぞれ担当する体制を構築し、高齢者の救急搬送を減らそうとしている。

また、臓器別の診療科で治療が難しいロコモやフレイルの患者は、救急科・緩和医療科の病床に入院してもらい、痛みの軽減や症状緩和などの治療をするとともに、退院後には地域の介護サービスにつなげる支援を継続している。一方で、高齢者のADLのモニタリングを同時並行で進めている。

迫り来る超高齢社会を乗り切るカギは、退院後の患者の状態をどのようにすれば適切に管理できるかに知恵を絞ることにありそうだ。それは、自ら望む医療・ケアを優先しようというACPのプロセスにも大きく影響する。

君塚 靖 えむでぶ倶楽部ニュース編集部 記者

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きみづか やすし / Yasushi Kimiduka

証券・金融畑の記者を経験した後、医療系記者に転身。2018年1月にメディカル・データ・ビジョンに入社。同社情報誌「えむでぶ倶楽部ニュース」編集部で医療・健康情報のデジタル化と位置付けられる、人が一生涯の健康・医療情報を自ら管理できるPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)についてや、コロナ禍で非接触型医療の新たな形として注目されるオンライン診療などについて執筆している。同社の医療情報サイト「めでぃログ」ポータル(https://portal.medilog.jp/)向けにも記事を執筆している。

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