佐戸記者の隣の席だった同僚記者が、父の守さんと言葉をかわすシーンが映画の中程にある。
「この話って、今すごく大きな話になっていて、個人で対応できる範囲を超えている」
事実が明らかになると世間を揺るがす問題に発展しかねないということで、未和さんに想いを寄せる同僚までもが口を閉ざしたままなのだ。
佐戸記者が信頼を寄せていたある職員は、こう話す。
「許せないのは、佐戸に関わっていた人たちの多くが何事もなかったかのように昇進していることです。いま局内で佐戸のことを自由に話せる空気はありません。同僚たちの中で、誰が上(上層部)と通じているかわからないからです」
佐戸記者の死にまつわる2つの謎
未解明のことが多くあるこの問題で、とくに大きな謎が2つある。1つは、佐戸記者が音信不通になってから、自宅で発見されるまでの「空白の2日間」。誰かが異変に気づき、生きて救うことはできなかったのか。
もう1つは、NHKが佐戸記者の過労死を外部公表したのが4年後だったことだ。それだけ時期が遅れた理由としてNHKは「遺族が公表を望んでいなかった」と説明しているが、遺族の思いとは食い違っている。なぜなのか。それぞれ今後、この連載の中で伝えていきたい。
父の守さんは、NHKに対してこう訴えてきた。
「娘が亡くなったあと、NHKは関係者一人ひとりから聞き取りをしたはずだ。その記録があるかどうかさえ、遺族に伝えないというのはどういうことなのか」
今年3月、遺族はNHKに対し、佐戸記者についての番組を制作して、放送するよう正式に求めた。いま回答を待っているところだ。
もし放送が実現すれば、NHKスペシャル「ムスタン」捏造事件以来の検証番組が世に出ることになる。先日、この映画『未和』の試写会を行ったところ、NHK自らが検証番組の制作に乗り出すための後押しとして、この映画を広く伝えることが重要だ、との意見が観客から相次いだ。
没後8年を前にNHKは一歩踏み出すだろうか。存命であれば先日39歳の誕生日を迎えた未和さんに、遺族は何らかの報告ができるだろうか。ただ、祈る思いだ。
(連載第2回に続く)
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