3000円のガトーショコラが売れまくる理由 4倍値上げと脱本業でブランドを築いた逆転の発想

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ところが、持ち帰りを始めてからほどなくして顧客から好評を得たことで、氏家さんは値上げを決意する。「儲けをしっかり得てビジネス化しないと、評判のラーメン店が薄い利ザヤのために潰れるのと同じパターンになるかもしれない」という危機感があったからだ。その分、材料やパッケージ、持ち帰り袋などの質を向上。全国に売れるようにネット通販の仕組みも積極的に導入した。

値上げはこれまでに都合3回。2008年に2000円から3000円に上げたのが最後だ。値上げのたびに商品の質も上げたが、「既存客が離れてしまうことを覚悟した。その一方で、高い価格に設定することで商品の格を上げ、新しいお客を獲得することを狙いとした」(氏家さん)。

最後の値上げに合わせて、店の本業もガトーショコラに切り替えた。イタリアン・レストランとして利幅の厚い商売である宴会を除いて、通常のランチ、ディナーの営業をやめたのだ。これは裏を返せば、もともとの本業であったイタリアン・レストランが苦戦を強いられていたということでもある。

創業事業にこだわらず、そこで培ったノウハウから得た新しいビジネスの種を見つけ、業態転換を行ったわけだ。1本3000円という値段の裏側には、ガトーショコラに軸足を移してビジネスを成り立たせるために一定の利幅を確保しなければならないという、やむにやまれぬ事情もあった。

ライセンス提供も模索

氏家さんはライセンスの提供も検討している

こうした戦略が当たり、ギフト向けやアニバーサリー用などを中心にスイーツ好きの需要を取り込むことに成功した。テレビ番組などで取り上げられることも少なくない。1月には、氏家さんの著書がSB新書から出版された。

実は、ケンズカフェ東京は特撰ガトーショコラのレシピを自社サイトで公開している。「知ってもらうことが重要。真似はできても、3000円では売れない」と氏家さんは言う。

課題を挙げるとすると、これ以上のビジネス拡大にあるかもしれない。特撰ガトーショコラはオーナーシェフの氏家さんがすべて手作りしており、自店での大量生産・販売には限界がある。「ライセンス提供は検討の余地があるかもしれない」。氏家さんは次の一手を模索している。

武政 秀明
たけまさ ひであき / Hideaki Takemasa

1998年関西大学総合情報学部卒。国産大手自動車系ディーラーのセールスマン、新聞記者を経て、2005年東洋経済新報社に入社。2010年4月から東洋経済オンライン編集部。東洋経済オンライン副編集長を経て、2018年12月から東洋経済オンライン編集長。2020年5月、過去最高となる月間3億0457万PVを記録。2020年10月から2023年3月まで東洋経済オンライン編集部長。趣味はランニング。フルマラソンのベストタイムは2時間49分11秒(2012年勝田全国マラソン)。

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