以上は事後的な関係だ。では、なぜこのような変化が生じたのだろうか? つまり、右のような貯蓄投資バランスの変化を引き起こしたメカニズムは、どのようなものだったのか?
経済学の言葉で言えば、「何が外生的に決まり、何が内生的に決まったのか」ということである。つまり、どの項目が能動的に動き、どの項目が受動的に対応したのだろうか?
この答えは、(2)式だけからではわからない。(2)式は、事後的な関係を示しているだけであり、何かが変化した場合に、どのようなメカニズムで両辺が等しくなるかについては、何も語っていない。変化のメカニズムを知るには、実際に起こったことをより詳細に見る必要がある。
投資の減少が変化の基本
実際に起こったのは、次のようなことだ。まず、貯蓄が減少した。これは、人口高齢化によるものだ。一般に人々は若年期に労働して貯蓄し、蓄積した資産を退職後に取り崩す。したがって、一人ひとりの貯蓄行動に変化がなくとも、人口全体の中での退職後世代の比率が上昇すれば、経済全体の貯蓄率は低下するのである。
これは「ライフサイクル・モデル」の結論である。日本の貯蓄率が低下することは80年代から予測されていたのだが、現実にそのとおりのことが起こったわけである。家計貯蓄率は、96年度には10・3%だったが、07年度には2・2%と、顕著に低下した。これは、たいへん大きな変化だった。
これによって、(2)式の左辺が減少する。他の条件が変わらなければ、経常黒字は減少したはずである。