コロナ前の便利すぎる生活は戻らない日本の現実 「24時間営業の便利な生活」はもう諦めよう

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縮小

社会のインフラである鉄道もいまや、「戦略的に縮む」業界の代表例となった。首都圏の鉄道各社は2021年1月から終電時間の繰り上げを始めた。JR東日本は山手線、京浜東北・根岸線、中央線、総武線など11路線で、終電時間を最大32分も繰り上げた。動きは全国に広がっている。

コロナ禍による影響と見られがちだが、そうではない。終電の繰り上げはコロナ禍前から鉄道各社で検討されていたことだ。JR東日本の場合、人口減少に伴い、過去10年間で線路保守作業員は約2割も減っている。

その一方で、設備の老朽化などで工事量は1割ほど増加しているという。そのため夜間に保守点検作業をする時間を確保するべく、終電を早めて始発を遅くする方策が検討されていたのである。コロナ禍をきっかけとして「戦略的に縮んだ」というのが実情だ。

不便になる動きをどう受け止めればいいのか

もしコロナ禍がなければ、それこそ保守作業員に外国人労働者を入れてでも、終電時間を維持しようとした鉄道会社もあったかもしれない。東京オリンピックが予定どおり2020年に開催されていた場合、会期中、首都圏の地下鉄とJR主要路線は、午前1時〜2時まで運行延長することが予定されていたくらいである。

コロナ禍が24時間営業の縮小を加速させたことは間違いない。では、不便になっていくこうした動きを、われわれはどう受け止めればよいのだろうか。

24時間営業が見直されていく一方、コロナ禍で増えたのが宅配サービスである。外出自粛によって思うように営業できなくなった店舗は競うようにオンラインショップを充実させたが、それに伴い配送需要も急拡大したのである。

「便利さ」は一度手に入れると捨てがたく、外出自粛が緩和された後も、近所のスーパーマーケットや店舗で買えば済むようなものまで運んでもらっている人は少なくない。

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持つべき視点は24時間営業にしろ、宅配サービスにしろ、「便利すぎるサービス」や「無料配送」というものは、それを担う誰かが、長い労働時間や変則的なシフトを強いられ、その我慢と犠牲の上に成り立っているということだ。

その我慢と犠牲は、多くの場合、報酬上乗せで報いられることはない。

「便利さ」の維持には多くの〝若い労働力〞を必要とするが、日本社会はこれからその〝若い労働力〞をどんどん失っていくのである。「便利さ」は必要だが、「便利すぎる社会」は長続きしない。

24時間サービスの見直しは「不便」になったのではなく、「便利すぎる」が「適正な便利さ」に是正されようとしているのである。本格的な人口激減を前にして、コロナ禍がわれわれに突き付けたことを学ぶ必要がある。

河合 雅司 作家、ジャーナリスト

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かわい まさし / Masashi Kawai

1963年名古屋市生まれ。中央大学卒業後、産経新聞社入社。同社論説委員などを歴任後、一般社団法人人口減少対策総合研究所理事長。高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員、厚労省ほか政府の有識者会議委員も務める。「ファイザー医学記事賞」大賞ほか受賞多数。主な著書に『未来の年表』(講談社現代新書)、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)、『コロナ後を生きる逆転戦略』『世界100年カレンダー』。2021年6月に『未来のドリル』(講談社現代新書)を刊行。

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