裁判百年史ものがたり 夏樹静子著 ~司法の当事者にこそ読ませたい労作
評者 仲倉重郎 映画監督
「裁判」が法に基づいて行われるようになったのは、1889(明治22)年に帝国憲法が制定され、翌90年に裁判所構成法が公布されてからである。以来120年、数々の事件が起こったが、その中でも裁判として意義深く、また後の時代にも影響を及ぼしたとされる12の大事件が取り上げられている。
その最初が「大津事件」である。91年、ロシアの皇太子ニコライが滋賀県大津で襲われた。犯人は、こともあろうに行列の警備をしていた巡査の津田三蔵であった。当時のロシアは超大国だったので、政府はパニックに陥った。犯人を如何に処すべきか。皇族に対する罪ならば死刑だが、外国の皇太子は「皇族」か否か大論争になった。ことを穏便に済ませたい政府は死刑にしたい。
だがそれに敢然と立ちはだかったのが、時の大審院長児島惟謙である。児島は行政の露骨な干渉をはねのけ司法権独立のために奔走した。その攻防は近代司法確立のための苦闘である。
そのほか、大逆事件、翼賛選挙無効裁判、帝銀事件、松川事件、チャタレイ裁判等、裁判史上忘れられない12の裁判が取り上げられている。それぞれに時代を表している事件である。
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