ミスターミニット、29歳落下傘社長の現場魂 トップダウンの理念より、現場からのアクション

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しかし、さらに印象的だったのは、長嶺さん本人の言葉でした。

「やっていることも意識していることも、昔から何も変わりません。自分にとっては、趣味のように靴を磨いていたのが、皆さんにサービスとして提供するようになっただけです」

この言葉は私にとっては衝撃的でした。なぜなら、マネジメント層が気づいていなかっただけで、そこにはビジネスの可能性の種が長く眠っていたことを意味するからです。ビジネスの新しい種がないか、よく外に探しに行きますが、もしかしたら足元の現場に、たくさんの種が存在しているのかもしれません。

現場にビジネスがあり、夢がある

長嶺さんと最高級クリーム「サフィール」

「やっていることは変わらない」、そう話した長嶺さんも、会社については大きく変わったと言います。

「29歳の人が社長になって、何かが変わるかもしれないという期待があったところに、実際にいろいろと現場の声に応えてくれるので、自分たちが考えている意見を言ってもいいんだ、という気持ちになりました」

こうした変化は、長嶺さんや現場の行動の変化につながっていきます。ミスターミニットの経営陣が「プレミアム靴磨き」導入を前に、フランスにある最高級クリームのブランド「サフィール」の工場に視察に行く際、長嶺さんは思い切って連れて行ってほしいと志願しました。

「今までだったら、言わなかったと思います。実際に自分の判断で靴磨きをしていたときも、『これを会社のサービスにしてください』とは一度も言わなかった。でも、ここはチャンスだと思いました」

この段階で長嶺さんは、まだ現場の一スタッフです。無茶とも思えるこの申し出に対しても、迫さんは応え、長嶺さんをヨーロッパ出張に同行させました。この出張同行を通して長嶺さんは、長い現場経験による現場目線から多くのことを学んできたと言います。

「やっぱり自分が愛着を持って使っている靴磨きクリームの工場に行ったのは大きかったです。お客様へのサービスの現場と、モノ作りの現場がつながって、伝えられる内容が深くなりました。今では『サフィール』の営業か、とまで言われています(笑)。また、ヨーロッパの靴磨きの現場を見て、日本人の靴磨きの技術に自信が持てたのも大きかった。今では、その思いを研修担当としてスタッフに伝えています」

サービスの現場とモノ作りの現場がつながる価値を裏付ける言葉です。これはマネジメント層には、なかなか生み出せない価値です。現場で長く愛着を持ってサービスを続けてきたからこそ、出てくる言葉でしょう。

今では、長嶺さんは靴磨きサービスの担当として、各店舗で研修を行うマネジャーに昇進しました。わずか半年前まで店舗で最もポジションの低いスタッフだったことを考えると、これも現場に大きなチャンスを感じさせてくれるアクションです。

迫さんとひとりのスタッフとの出会いから、新サービスの展開、海外出張への同行、そして昇進というところまでの一連のプロセスは、現場に夢と勇気を与えるものだと思いませんか? このようなプロセスが社内で起こるのを期待している会社は、多いはずです。

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