ゴキブリを見て「不潔な生物」と逃げる人の勘違い 「刷り込み」が人間の判断力を曇らせる理由

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例えば、アメリカ人が「クックドゥードゥルドゥーと聞こえた」と話せば、それを聞いたアメリカ人は「ニワトリの鳴き声のことだな」とすぐわかります。

言語も、社会ルールも、教育によって「刷り込む」ことで、人は違和感なく安全に、社会生活を送ることができるようになるのです。

「刷り込み=悪いもの」でもない

学校教育の刷り込みの多くは、「悪いもの」ではありません。たとえば、算数で、「1+1は2である」と習います。天才発明家エジソンは、「粘土1つと粘土1つをくっつけたら、大きい粘土1つになるじゃないか。なんで2なんだ」と文句をつけたらしいですが、ふつうの子どもは、「1+1=2」を批判したり、疑うことはありません。

先生は、子どもたちに「1+1は2です」とまず覚えさせる。そうしないことには、次のステップへと授業が進められません。言語もそうです。「これは『葉っぱ』です」「『本』とはこういうものです」と、子どもたちに覚えさせる。

「先生の言ったことを信じて、素直に覚えなさい」。これが義務教育、初等中等教育の本質です。そして、先生の言うこと(=刷り込み)に疑いを持たない子どもほど評価されるのが、義務教育とも言えます。

義務教育までは、それでもいいのです。

ところが、大学、大学院といった高等教育の役割は、刷り込み中心だった初等中等教育とは正反対であるべきです。つまり今度は、それまで習ってきた刷り込みを疑い、自分なりに仮説を立て、新しい価値観を生み出す力をはぐくむ。これまでの知識を「疑う力」を身につけるのが、高等教育の役割だと、私は思うのです。

少なくとも欧米では、そういう高等教育をしています。欧米の人と話すと、「いや、そうとは限らない」「例外もあるはずだ」「オレの意見はこうだ」とイチャモンばかりつけられるので少々閉口することもあるのですが、相手と積極的に議論することにより、その話はとても深まります。

欧米人のこういった姿勢こそ「疑う力」であり、批判精神です。なにを批判するかと言えば、常識といわれるものを、彼らは疑っていくのです。そして、彼らなりの仮説を立てる。

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