ゴキブリを見て「不潔な生物」と逃げる人の勘違い 「刷り込み」が人間の判断力を曇らせる理由

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彼らはこういう「思考トレーニング」の技術を身につけています。ところが、日本人はどうかというと、大学や大学院まで、「刷り込み教育」が延々と続いているように思います。

何が問題かって? そういう人が社会に出ると、組織や権力者や偉い人の言うことをそうののまま鵜呑みにし、どんなことがあってもそれを疑わない、「イエスマン」になってしまうからです。

医者の世界では、大学で医学部面接試験が導入されるようになって、優秀な人を採るというよりも、「教授の手足となって働けそうな人」を採る傾向があります。イエスマンが大好きで、上が言ったことを疑ったり、それに逆らったりするなんて、もってのほか。

じつのところ、日本でいま行われている医療の多くは、信用できるエビデンス(科学的根拠)に基づいたものというより、「偉い教授がそう言っているから」「大学病院の方針だから」に基づく医療がまん延しています。

古い医療常識が跋扈し、その「刷り込み」を疑う習慣がない。すると、どんなことが起こるのでしょうか。日本人の健康が危ぶまれるかもしれない、そんな例を紹介します。

行きすぎた「コレステロール」嫌い

長らく解かれていない刷り込みの1つに「コレステロール値は低いほうがいい」があります。日本では、検査データのコレステロール値を「目の敵」のように減らそうとします。しかし私はこれを疑っています。

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アメリカ人は心筋梗塞で死ぬ人が、日本人に比べて圧倒的に多いので、たしかにコレステロール値が高すぎる人は、減らす努力をしたほうがいいと思います。アメリカではがんで亡くなる人の1.7倍の人が、心筋梗塞で亡くなっているからです。

ところが、日本人は心筋梗塞で亡くなる人は、がんの10分の1程度。コレステロールを減らすように努めると、体の免疫機能が落ちて、むしろ、がんが発症しやすくなってしまうのです。実際、コレステロール値が低い人ほど、がんになりやすいというデータもあるのです。

日本では、がんでの死亡率がいちばん高いのですから、コレステロール値を減らすことばかりを目標のようにいうのは考えものでしょう。しかも、コレステロール値を減らすという対策は、男性ホルモンも同時に減らしてしまいます。これは中高年以降の男性の意欲低下につながり、要介護状態を誘発しかねません。

和田 秀樹 精神科医

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わだ ひでき / Hideki Wada

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、現在は和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『80歳の壁』(幻冬舎新書)、『60歳からはやりたい放題』(扶桑社新書)、『老いたら好きに生きる』(毎日新聞出版)など著書多数。

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