ロヒンギャ113日海上漂流に映る難民支援の困難 81人の女性や子供がようやくたどり着いた場所

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正式な難民認定カードを所持しているものの、コロナ禍において感染拡大への懸念などから、ロヒンギャ難民を巡る状況は先行きが見えない(写真:Geutanyoe Foundation提供)

また、たとえ受け入れを拒否されても、劣悪な難民キャンプの環境から逃れたい一心で密航するロヒンギャ難民は後を絶たない。密航業者らはロヒンギャ難民に対して、マレーシアをはじめとした東南アジアでより良い住居に安定した収入を得ることができると巧みに誘い、多額の借金をさせてボートでの脱出の費用を支払わせた挙げ句、海に放り出すケースなどもこれまで幾度も発生している。

また、目的地であるマレーシア到着の目前にさらなる「身代金」を要求されることもある。親族らが支払いに応じることができなければ見捨てられるなどの悪質な実態も明らかになっている。なかには、すでにマレーシア現地にいる会ったこともない男性と「結婚」するために海を渡る人身売買なども横行していることが指摘されており、実態は極めて深刻だ。

当初、人権団体などは、ロヒンギャ難民たちがインド政府によってミャンマーへ突き返されることを懸念していた。ただ、幸いなことに東南アジアのアチェに漂着したことに安堵している。今回、漂着した離島は電気も水道も通っておらず、対岸のアチェから大量の水のタンクや食料などがボートで漁師や支援団体により運ばれ、懸命なサポートが行われている。

アチェがロヒンギャ難民を救助した理由

アチェは、保守的なイスラム教徒の住民が大半を占めていることから、厳格なイスラム法であるシャリアをインドネシアで唯一施行している州であり、同じイスラム教徒であるロヒンギャ難民への同情心は厚く、地元漁師らが中心となって人道的観点から救助してきた。

ところが、いったんアチェに漂着して居住場所が手配されても、そこで話は終わらない。コロナ禍の昨年6月と9月にアチェに漂着したロヒンギャ難民380人ほどのうち大半が、マレーシアを目指して収容先のキャンプを脱走、関係者によると何人かはマレーシアに密航を遂げ、何人かは経由地点で拘束されたという。

UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によると、2020年1月以降、すでに数千人もの難民がバングラデシュの難民キャンプから逃れてボートで海に繰り出しており、そのうち3分の1以上が子どもたちだという。

だが、コロナ禍でこれまでロヒンギャ難民を比較的良心的に受け入れていた東南アジアの国々が、ロヒンギャをはじめとした難民に対し、その門を固く閉ざしている。特に、最終目的地として目指されることの多いマレーシアでは、初期のコロナ感染が爆発的に広がった大規模クラスターであるモスクでの集団礼拝に、ロヒンギャ難民らも参加していた事実が発覚。その後も入管の収容施設において感染が広がったことなどからロヒンギャなど難民への差別感情が一気に広がった。

政府も、感染抑止の観点や、国民の理解を得るために厳格な対応を取らざるをえない現実もある。さらに、アルジャジーラが関係者の話として明らかにしたところによると、今回救助されたアチェにおいても、漂着後すぐに地元警察が難民らに対して、ボートに戻ってインドネシア領域を出ていくように要求したという。難民らがこれを拒んだことで上陸に至ったものの、今後各国が自国のコロナ対策と人道支援のバランスをどう保つか、難しい判断を迫られている。

海野 麻実 記者、映像ディレクター

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うんの あさみ / Asami Unno

東京都出身。2003年慶應義塾大学卒、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”等を手掛ける。卒業後、民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。退社後は、東洋経済オンラインやYahoo!Japan、Forbesなどの他、NHK Worldなど複数の媒体で、執筆、動画制作を行う。取材テーマは、主に国際情勢を中心に、難民・移民政策、テロ対策、民族・宗教問題、エネルギー関連など。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、撮影、編集まで手掛ける。取材や旅行で訪れた国はヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。

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