ロヒンギャ113日海上漂流に映る難民支援の困難 81人の女性や子供がようやくたどり着いた場所

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インドネシア・アチェ州の島に漂着後、PCR検査が実施されロヒンギャ難民全員の陰性が確認されたのち、さらに翌日地元の看護婦などによりワクチン接種も施された(写真:Geutanyoe Foundation提供)

インド沿岸警備隊は、生存していた81人に対して食料や水、生活必需品の援助を行い、さらにボートの修繕も施す人道的援助は行ったものの、インド政府の方針により「上陸」は拒んだ。インド側は、バングラデシュに対してロヒンギャ難民らが乗ったボートを戻すよう交渉したものの、バングラデシュ側は受け入れを拒否。そのため、アンダマン当局は彼らが再び航海に出ることができるよう、東南アジアへの再出航に向けて支援をしたという経緯だ。

海洋上で漂流していた3カ月の間に、国際機関や難民の家族らが、インド、バングラデシュ、ミャンマー、そしてマレーシアに向けて、ボート上の生存者の救出を呼びかけたが、現在、各国共に新型コロナウイルスの感染者数増加の対応に苦慮していることもあり、受け入れは実現しなかった。

そのため5月30日、修理も終えて出航の準備がいざ整った木製ボートは81人を乗せて再び海へと繰り出した。どれほどの距離を航海できるかが定かではなかったため、当初の目的地であったマレーシアは目指さずに最も近いインドネシアの領域にたどり着いたというわけだ。

インドネシアのアチェは、漁師や地元の人々がロヒンギャ難民に対して同情的なことから、行き場を失ったロヒンギャが漂着する例はかねて少なくない。しかし、より安定した目的地を求めて、アチェにいったん降り立った後に、再び密航業者などに金を払って、最終目的地であるマレーシアを目指す事例は後を絶たない。

マレーシアがロヒンギャ難民の受け入れを慎重視

今回のボートに乗っていた大半が女性だった。「すでにマレーシアに先にボートで渡ることに成功した夫がいるため合流したい」などの事情もあったようだ。

一方、これまでロヒンギャ難民の受け入れに基本的には寛容であったマレーシアが、コロナ禍で引き締めを強くしていることから、漂流するロヒンギャを巡る今後の見通しは不透明だ。

マレーシアのムヒディン首相は明確に、「新型コロナによりわが国の資金と対応能力はすでに限界を超えている。これ以上の難民は受け入れられない」と宣言しているほか、同じ東南アジアのタイも難民受け入れを厳格化している。今後、受け入れ先が見つからず漂流してしまうロヒンギャ難民が増えることも予想される。ちなみに6月7日現在、81人のロヒンギャ難民の正式な移送先は決まっておらず、インドネシア州政府などからの連絡を待っている状態だ。

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