“不公平感”に頭を悩ましている業界の代表例が、小売りや飲食だ。
生活必需品などを扱う店頭で働く従業員は、不特定多数の顧客と日々じかに接する。感染リスクの高さを考えれば、ワクチン接種が急がれる職場の1つだろう。ただ、これら業界から「職域接種実施」の明確な方針はあまり聞こえてこない。
イオンは早期の職域接種実施に向け「準備を進めている」(コーポレート・コミュニケーション部)ものの、「具体的な取り組みや課題はこれから詰める」(同)。セブン&アイ・ホールディングスも「前向きに検討しているが、具体的に決まったことはない」(広報)という。
大手小売りや飲食チェーンは膨大な数の従業員が全国の店舗に分散し、各地域で会場と打ち手の確保が必要だ。従業員の接種の順番も、店頭業務に支障を来さないよう調整が求められる。
地域ごとに打ち手や会場を確保する難しさから、居酒屋大手のワタミの広報は「やりたいとは思っているが、現実的にはクリアしなければいけないハードルが多い」と説明。無印良品を展開する良品計画は、「(店舗が入居する施設の)デベロッパーなどと取り組み、一緒に接種可能な状況を整えられたらよいのではないか」(広報・ESG推進部)と回答した。
悩ましい「優先順位づけ」
スピード感を重視する以上、職務や雇用形態に応じた優先順位づけも問題となる。
三越伊勢丹ホールディングスは「雇用形態などで不公平感が出ないよう、具体的内容を調整している」(広報)と話す。百貨店の店頭では、アパレルメーカーなど取引先から派遣された従業員も多数働く。自社の接種の対象範囲とする従業員の線引きが難しい。
フランチャイズ展開を行う企業は、加盟店の処遇も考慮しなければならない。「(対象範囲によって)社員は受けられても加盟店は受けられないのか、といった問題も生じかねない」(大手コンビニチェーン広報)。フランチャイズ比率の高いある飲食チェーンは、本部や直営店との不公平感が生じる懸念から、「現時点で職域接種を実施する考えはない」(広報)と明言する。