なぜ世界中で「渋沢栄一」が研究されているのか 渋沢の資本主義思想「合本主義」の今日的意義

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渋沢は幕末の2年間、フランスに滞在していましたが、そのフランスの国立社会科学高等研究院のパトリック・フリデンソン教授(経営史)は、日産自動車を買収したフランス最大の自動車会社ルノーの研究をしていることもあり、もともと日本に興味を持っていました。

フリデンソン教授はとくに、渋沢の公と私との関係について考察しています。渋沢の公益を追求する存在としての実業家(私企業)という考え方が、非常に面白いと考えているようです。渋沢は「天下り第1号」ではないかとも語っています。

自由と民主主義、道徳と倫理を両立させる

こうした一連の研究の中で興味深い指摘としては、競争も新規参入も民主的に認める渋沢モデルの仕組みが、欧米列強に続く新興国日本においてうまく機能したことが、渋沢の功績の1つだという点です。

財閥系が圧倒的な力を持ってその国の経済を牛耳っている新興国が多い中で、現在、力を伸ばしているアフリカや東南アジアなどの新興国に、合本主義に基づく日本の経済発展方式が応用できるのではないか、との指摘は、これらの研究からの収穫でした。

昨年から続く新型コロナウイルス感染症の世界的猛威では、国ごとの対応の差がはっきり出ており、中国の国家資本主義がより勢いを増しています。国家監視体制とも言われますが、一応コロナの抑え込みに成功し、早々と経済活動を再開して、成長を遂げています。

それに対してアメリカは、一時はまったく感染を抑え込むことができていませんでしたが、バイデン政権に代わってワクチン接種のスピードが加速し、現在ではコロナ感染をかなり抑え込むことに成功しました。

しかし、欧米や日本といった民主主義国が、今後コロナを抑えることができないと、民主主義体制そのものに対する疑念が湧いてくるのではないでしょうか。中国的な強権管理集中型の国家体制が見直されるような動きが出てくるかもしれません。

しかし、中国の国家監視社会のような極端なやり方は、これまでの民主主義体制の立場からすると受け入れがたいものです。

そういったときに、渋沢の考え方がヒントになるように思うのです。国家による強権管理集中と自由民主主義の間をいくような、つまり、人々が自由を享受しながらも道徳や倫理に重きを置くような考え方です。

渋沢が西洋を視察して、そこで得た学びを日本で実践しようとしたときには、そのままそっくりまねするのではなくて、必ず温故知新というか、不易流行というか、日本の歴史、伝統、慣習をふまえて、新しいものを取り込んでいきました。

渋沢は、そのうえで自分なりの資本主義や商売のやり方を創出しました。「合本主義」という言葉自体が、それを表していると思います。渋沢の肖像が入った新1万円札が、日本発の望ましいグローバル資本主義の象徴になってほしいものです。

木村 昌人 関西大学客員教授

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きむら まさと / Masato Kimura

1952年横浜生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科(政治学専攻)博士課程修了。法学博士(慶應義塾大学)、博士(文化交渉学、関西大学)。株式会社三井銀行勤務後、スタンフォード大学アジア太平洋研究センターおよびハーバード大学ライシャワー日本研究所各客員研究員、ミズーリ州立大学客員教授、文京学院大学教授、公益財団法人渋沢栄一記念財団研究部部長・研究主幹などを経て現職。主な著書に『渋沢栄一――日本のインフラを創った民間経済の巨人』(ちくま新書)、『日米民間経済外交1905~1911』(慶應通信)などがある。

 

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