なぜ世界中で「渋沢栄一」が研究されているのか 渋沢の資本主義思想「合本主義」の今日的意義
韓国ではかつて、渋沢は日本帝国主義、植民地主義者の先導者として批判されていましたが、最近では、経済・経営分野の研究者を中心に、是々非々の立場から渋沢の韓国の近代化に及ぼした影響を実証的に分析するという新しい動きが見られます。
例えば、韓国・大邱市にある啓明大学校の金明洙(キム・ミョンス)准教授は、慶應義塾大学大学院経済学研究科の博士課程を修了し、「韓国の渋沢栄一」と呼ばれた韓相龍(ハン・サンヨン 1880~1947)という実業家についての研究で経済学博士号を取得しています。
韓は20世紀初頭に、渋沢の設立した第一銀行で銀行について学びました。帰国後に漢城銀行(現・ソウルナショナルバンク)を創設し、数多くの基幹産業の設立に関与しました。また、1920年代には朝鮮実業俱楽部を創設し、韓国財界を生み出しています。
著名な研究者による渋沢研究
こうした状況から生まれてきた問題意識を整理すると、次のような疑問が浮かびます。
渋沢の思想と行動が近代東アジアの中で相対的な評価ができないか。渋沢の道徳経済合一説、いわゆる「論語と算盤」は、なぜ近代日本で広く受け入れられ、近代化や工業化を達成するのに貢献することができたのか。
渋沢のような考えは突然現れたものなのか、それとも、近世からすでに日本に存在するものだったのか。もしそうであるならば、渋沢の思想形成の過程において、いつ、どのように影響したのか。また、同時代の東アジア儒教圏の中国や朝鮮では、渋沢をどのように捉えていたのか。
これらのシンポジウムやセミナーに参加した著名な研究者が、どのような研究をしているか紹介しましょう。
ハーバード・ビジネス・スクールのジェフリー・ジョーンズ教授(経営史家、比較経営史)は、日本の近代化について講義をするとき、主要人物として渋沢栄一と岩崎弥太郎を取り上げています。
儒教はキリスト教やイスラム教に比べて、宗教色が薄いので、渋沢栄一の合本主義のモデルが現在の新興国の経済発展のモデルになりうるのではないかと考え、東南アジアやトルコとの比較を行っています。
ロンドン大学のジャネット・ハンター教授(日本を含む東アジア経済史)は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、イギリスが日本商人のモラルの低さについて痛烈に批判するのに対して、渋沢と日本企業がどのように対応しているかを、日英双方の新聞などを綿密に調べた実証的な研究を行いました。
2016年には、『Deficient in Commercial Morality?(商業道徳の欠如:19世紀後半から20世紀初頭の経済倫理をめぐってグローバルな討論の俎上に載せられた日本)』という著書を刊行しました。
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