多くの人が陥る「俳句は感動を詠まねば」の勘違い 「感動至上主義」よりもっと大事なこと

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夏井:私は「感動しなくていい」って答えることにしてるんです。「感動しないと俳句にならないって思い込んでいるところが、そもそも無理」ってはっきり言います。

感動至上主義みたいな問題は学校の先生たちとの実技講習会でも出てきます。取り合わせを子どもたちに教えると、先生たちが「こんなふうに言葉をパズルみたいに当てはめて、感動もしてないのに、子どもにこういうことを書かすのはいかがなものか」という質問が必ず来るんです。

そんなときは先生方に「先生は、日々、感動して暮らしてらっしゃいます?」と聞くことにしています。日々感動して「おおーっ」と言ってたら、穏やかに暮らせないですよ。子どもたちも「ヒマワリがきれいですね、感動しますね、その感動を書きましょう」と感動を強要されても困ると思いますよと。

そもそも感動は双方向のもの。自分は感動してないけど、取り合わせの作り方を教えられて、言葉をパズルのように合わせて出来上がった俳句が、読み手に感動を与えるという感動もあるわけです。「感動しないと書けないという考え方をまず捨ててみませんか」と言います。

岸本:端的で的確なお答えですね。

まずは「ちょっと面白い」くらいから

夏井:この質問者は感動したことを書きたいのかな? でも、感動しても俳句ができない間は、書かなくていい。感動じゃなくて、ちょっと面白いくらいが書きやすいんじゃないかな。バナナの皮が落ちていたとか、いいんじゃないですか。

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子どもたちと吟行に行くときは、「感動を俳句にしよう」なんて言いません。「ちょっと面白いものを見つけたら、一緒にいる友達には言わないで、こっそり、いつきさんのところに『ちょっと面白いもの見つけた』って呼びに来て」って言うんです。

そうすると、子どもたちは、ばーっとあちこちに広がって、お友達同士でくっつくこともなく、ネタを探しに行きます。そして、たとえば棒っきれを持ってきて「この形が面白い」とか、木の幹に穴を見つけて「いつきさん、ここに穴、開いてるんです」とか、次々とちょっと面白いことを見つけてきます。

その面白いものを見つける遊びくらいが、十七音の分量に見合ってるんじゃないかっていう気はするんです。感動はもっと技術的に上手になってから、って感じです。

岸本 尚毅 俳人

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きしもと なおき / Naoki Kishimoto

1961年、岡山県生まれ。俳人。中学時代から俳句を始め、初学時代は「渦」(主宰赤尾兜子)に投句。兜子逝去後、「青」(主宰波多野爽波)入会。「ゆう」「屋根」を経て、現在「天為」「秀」同人。1991年「青」同人賞、1993年句集『舜』で第16回俳人協会新人賞、2009年『俳句の力学』で第23回俳人協会評論新人賞、2012年『高浜虚子俳句の力』で第26回俳人協会評論賞を受賞。角川俳句賞、田中裕明賞、星野立子新人賞、石田波郷新人賞などの選考委員を務める。NHK俳句選者(2018・2021年度)。「岩手日報」「山陽新聞」俳句欄選者。

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夏井いつき 俳人

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なつい いつき / Itsuki Natsui

1957年、愛媛県生まれ。俳人。8年間の中学校国語教諭経験を経て俳人に転身。俳句集団「いつき組」組長。創作執筆に加え、俳句の指導にも力を注ぎ、俳句の授業「句会ライブ」、全国高等学校俳句選手権「俳句甲子園」の創設にかかわり、「俳句の種まき」活動を積極的に行う。「プレバト!!」(MBS/TBS系)をはじめ、テレビ・ラジオ・雑誌・新聞・webなどの各メディアで活躍。松山市公式俳句サイト「俳句ポスト365」選者、「朝日新聞」愛媛俳壇選者、「愛媛新聞日曜版」小中学生俳句欄選者。2015年より俳都松山大使。

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