イスラエル、なぜいま「12年ぶりの政権交代」か 汚職問題などでネタニヤフ首相がついに退陣へ

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パレスチナ問題にかぎらず、ネタニヤフ首相に対しては、汚職問題から目をそらすために国内政治を利己的に利用していると、中道政党イェシュアティドのラピド党首らは批判してきた。

ネタニヤフ首相の功罪としては、トランプ前アメリカ大統領と親密な関係を築くことで、アメリカ大使館のエルサレム移転や、アラブ首長国連邦(UAE)との歴史的な国交樹立につながった「アブラハム合意」などの外交成果をもたらしたことが挙げられる。イラン核問題やパレスチナ問題では、強硬な立場を示してイスラエルの安全保障を確立する一方で、政治を私物化して民主主義を歪め、イスラエル社会において右派と左派の深刻な分断を深めてしまった。

かなり微妙なバンラスの連立政権

連立合意した8党には、極右政党のヤミナと共にアラブ系政党のラアムが入っている。パレスチナ問題の解決策として長年模索されてきたイスラエルとパレスチナという2国家解決案をめぐっては、ヤミナがこれに反対するなど両党は真っ向から対立する。

アラブ系政党が政策面で全く異なる極右と組んだのは、ネタニヤフ首相が自身の政治的な利益を狙ってパレスチナ人の命を犠牲にするような政治手法への反発もあっただろう。

イスラエルでは、1948年の建国後も難民とならずに住んでいた場所にとどまったり、イスラエル国内に移動したりしたアラブ系市民(パレスチナ人)や、その子孫が約180万人を数え、国民の約20%に及ぶ。だが、「2級市民」扱いをされて雇用面や住宅政策での差別が存在しており、イスラエル政治史上初めてアラブ系政党が連立政権に加わる意義は大きい。

ラアムは、ベドウィン(遊牧民)が住むイスラエル南部の開発やアラブ系市民を対象とした住宅政策に関して多額の予算を投入すると訴えている。アラブ系市民にとっては、ユダヤ人が中心だったイスラエル政治の舞台に声が届くことになり、画期的な動きと言える。

ただ、一部のユダヤ人や右派勢力にとっては衝撃的な出来事だ。連立交渉が行われたホテル近くには、右派政党の支持者が集まり、「テロ支持者たち(アラブ系政党)と政府をつくるな」とのプラカードを掲げ、アラブ系政党との連立に反発している。先のガザ衝突では、イスラエル国内で極右勢力がアラブ系市民を襲撃する対立が激化しており、緊張が再び高まる懸念もある。

順調に進めば、極右のベネット党首は2年間の予定で首相に就任する。連立には、パレスチナ国家の創設に前向きな左派政党が加わっているものの、パレスチナ和平の進展は絶望的な状況だ。ベネット氏は、タイムズ・オブ・イスラエルのインタビューで、ヨルダン川西岸の占領政策を続け、ユダヤ人入植地も拡大する方針を示している。

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