イスラエル、なぜいま「12年ぶりの政権交代」か 汚職問題などでネタニヤフ首相がついに退陣へ

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「ビビ」との愛称で親しまれるネタニヤフ首相は、ワクチン接種で世界でもいち早く新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込んだほか、パレスチナ問題ではイスラム組織ハマスへの強硬対応により、右派を中心に人気を保ってきた。

ただ、2019年4月以降、ネタニヤフ首相の信任投票の色彩が強かった4回の選挙で、決定的な勝利を収められず、議会で過半数の議席が必要な組閣に失敗して投票が繰り返されてきた。

世界各地からの移民という出自や政治思想、宗教的な立場の違いから小党が乱立するイスラエルでは、規模の小さな政党が連立の行方を左右することが多い。今回、ネタニヤフ首相を退陣に追い込むことになった各政党の合意でカギを握った1人が、極右政党ヤミナのベネット党首だ。

ハイテク事業を起業→政治の世界へ

ベネット氏は、イスラエル軍の精鋭部隊で活躍後、ハイテク事業を起業して株式の売却によって多額の富を得た。2006年の政界入り後には主義主張が近かったネタニヤフ氏の側近となり、ネタニヤフ政権下で国防相などを歴任。

しかし、同氏の政治姿勢に不信を持つようになり、ネタニヤフ首相降ろしの急先鋒となる。主義主張が大きく異なる左派や、パレスチナ問題では水と油の関係のようなアラブ系政党と組むという奇策に打って出た。

ベネット氏は今年2月のイスラエルのメディア「タイムズ・オブ・イスラエル」のインタビューで、ネタニヤフ首相の憎悪と分断を煽るような政治手法への嫌悪感をあらわにしている。

「左派勢力がすべて裏切り者たちであり、ばかげた考え方であるという概念は受け入れがたい。わたしはビビ(ネタニヤフ首相)よりも右派だが、自分の政治的な得点を狙うために、憎悪や政治的な分極化を煽るという手法は使わない」と述べている。

5月にパレスチナ人200人以上が死亡したガザ地区での軍事衝突でも、ネタニヤフ首相は、聖地エルサレムでのパレスチナ人と警官隊の衝突を煽り、ハマスのロケット弾攻撃を誘発して大規模な軍事衝突につなげたとの見方がある。「ミスター・セキュリティー」と呼ばれるネタニヤフ氏が、得意とする安全保障問題を前面に出すことで右派の歓心を買い、連立交渉などを有利に進めて政治的な窮地を乗り切ろうとしたのだ。

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