求心力ない将軍「徳川慶喜」が見せた渾身の外交術 就任直前に大失態を犯しても逆風には強い

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慶応2年12月25日、孝明天皇が突然崩御する。慶喜が将軍宣下を受けてわずか20日後のことだ。動乱の幕末を慶喜に託すかのような急死であった。

何かに呪われているかのように逆風が続く慶喜だが、絶望的な状況への耐性は強い。慶喜はこれまで数々の政局をくぐり抜けたがゆえに、どんな出来事にも必ず良い面と悪い面があると肌で感じてきたことだろう。

孝明天皇の庇護がなくなるのは痛手だが、天皇の顔を立てて攘夷を装う必要もなくなった。慶喜はむしろ、この孝明天皇の死去を、堂々と開国派に転じる千載一遇のチャンスととらえて、大きな勝負に出る。

イギリス、オランダ、フランス、アメリカの4カ国の公使を大阪に集結させて、順番に会見。これまで引き延ばしてきた兵庫開港を、慶喜は「将軍の責任を持って断行する」と確約したのである。

幕府を倒す口実を失った薩摩藩

これには各国の公使たちも驚いた。イギリスのパークスにいたっては、慶喜を次のように絶賛している。

「今まで会った日本人の中で最もすぐれた人物」

そんな慶喜の鮮烈な外交パフォーマンスに焦りを隠せなかったのは、薩摩藩である。もっとも薩摩は開国を主張してきたので、今となっては慶喜と対立点はない。だが、それでは困る。幕府を倒す口実がなくなってしまうからだ。

どうやって慶喜とケンカすればいいのか――。もはや国父の島津久光は藩の代表者でしかない。その裏で沈思黙考するのは大久保利通であり、腕を鳴らすのは西郷隆盛である。

やがて、京都の越前藩邸にて四侯会議が開催される。そこで、島津久光、山内豊信、伊達宗城、松平慶永の4人が、慶喜と対峙することとなった。

(第8回につづく)

【参考文献】
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
家近良樹『徳川慶喜』(吉川弘文館)
家近良樹『幕末維新の個性①徳川慶喜』(吉川弘文館)
松浦玲『徳川慶喜将軍家の明治維新増補版』(中公新書)
野口武彦『慶喜のカリスマ』(講談社)

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