「北朝鮮の強制収容所」3Dアニメで描かれた"現実" 映画「トゥルーノース」が担う啓発的な役割

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映画にまつわる時代背景を簡単に振り返っておこう。1950年代末から1984年までの25年間、およそ9万3000人の在日朝鮮人(在日)が〝帰還事業〟という名の下、北朝鮮に渡っていった。当時、北朝鮮政府を支持する朝鮮総連は「北朝鮮は地上の楽園」というイメージを巧みに作り上げ、在日の北朝鮮への〝帰還〟を積極的に促していた。

これに呼応して、日本の政治家やマスコミをはじめとした日本社会も、さまざまな思惑からこれに賛同し、在日の移住を後押ししていたのだ。これにより、『トゥルーノース』で描かれる惨劇が、実際に数多く繰り広げられることになるのだった。

いつになっても変わらない「北朝鮮の物語」

それにしても……と思う。北朝鮮の国民たちの状況を伝える報道は、今も20年前も同じような内容の繰り返しだ。金一族体制によって北朝鮮国民にもたらされた、さまざまな苦難は今もって解消されていない。

毎年、春の端境期になると、決まって食糧難のニュースが届き、その一方で、韓国ドラマを視聴した人々が銃殺刑に処されたといった話題が取りざたされる。強制収容所の状況は、解消されるどころか、むしろ悪化していると囁かれている。

あえて言ってしまえば、『トゥルーノース』が明かす物語は、これまでに何度も語られてきた「北朝鮮の負の物語」だ。北朝鮮に少なからず興味のある人なら、かつてどこかで聞いたストーリーのように映ってもおかしくないだろう。この事実はとても重い。これまで何度も繰り返されてきた悲劇が、今に至っても過去のものになっていないからだ。

北朝鮮の強制収容所については、1994年に刊行された『北朝鮮脱出』(文藝春秋刊)によって、その実態を初めて知ったという人が多いのではないだろうか。筆者自身も、この作品を読んだことがきっかけとなり、北朝鮮の人権問題に強い関心を持つようになった1人だ。

この本の共著者の1人である姜哲煥は、ヨハンやミヒと同じく、ピョンヤンに暮らす在日帰国者の家庭に生まれている。だがのちに、家族と共に強制収容所に送られると、脱出するまでの10年間にわたって過酷な生活を強いられた。 

本書がベストセラーとなった3年後の1997年には、収容所で政治犯の監督官を務めていた安明哲が記した『北朝鮮 絶望収容所』(KKベストセラーズ刊)が出版されている。作者の安の姿は、『トゥルーノース』に登場するリーという若い看守にも重なるところがある。

さらに2008年に刊行された『収容所に生まれた僕は愛を知らない』(KKベストセラーズ刊)では、収容所で生まれ、そこから奇跡的に脱出を果たした申東赫が、自らのたどったすさまじい半生を粛々とつづっている。

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