「北朝鮮の強制収容所」3Dアニメで描かれた"現実" 映画「トゥルーノース」が担う啓発的な役割

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『北朝鮮脱出』が刊行された1994年から、すでに27年もの歳月が経過した。しかし、「政治犯強制収容所」という北朝鮮の闇は、現時点においても人々を苦しめ続けており、好転の兆しは見えてこない。そうした状況にあるため、今なお同じテーマを扱った作品が誕生し、悲惨な状況が繰り返し伝えられていく。これは決して喜ばしいことではないだろう。

苦しい境遇にあるのは収容所に入れられた人たちだけではなく、『トゥルーノース』の中でも短く触れられている北朝鮮に拉致された日本人被害者にとっても同じだ。2002年に帰国を果たした5人を除けば、日本に帰ってきた人は1人もない。

これらの事実を突きつけられたとき、私たちにできるのは、不公平で理不尽な世の中を嘆き、それを受け入れるしかないのかと、暗澹たる気持ちになるばかりだ。

『トゥルーノース』が担う役割

国家というのはとてつもなく強靭で、北朝鮮についてもそれは言える。1990年代、北朝鮮は大飢饉に見舞われ、数百万人の国民が命を落としていった。それ以降、金一族体制の崩壊を論じる主張が急増したが、2021年現在、北朝鮮は健在であり、崩壊したのはむしろ〝金一族体制崩壊論〟だったと言わざるをえない状況だ。

筆者はかつて、北朝鮮に関わるさまざまな問題に取り組む人たちと親しく交流をしていた時期がある。現在も、脱北者救援や収容所解体のような人権問題をはじめ、拉致や特定失踪者などの問題解決のために尽力している人たちには頭が下がる思いだ。

それらの活動の陰には、時間の流れに逆らうことができず、思いを果たせぬまま亡くなってしまった方たちや、高齢となって身を退いた方たちが大勢いる。筆者自身も、生業を得て以降、救援活動にはもはや携わっていない。

〝時間〟を味方にできる国家ほど、手強いものはない。それを思うたびに、無力感に襲われるばかりだ。

ここまで述べてきたように、『トゥルーノース』を見て感じたのは、いまだ変わらない状況に対する「落胆」だった。だが、全編を見たあと、別の感慨を抱くこともできた。この映画は、北朝鮮がいまだ抱えるさまざまな問題を次の世代に語り継ぐために作られたのではないかと思えたのだ。

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