「ヴィンチェンツォ」が今年最大ヒット予感のワケ スタジオドラゴンの利益大幅増の牽引役にも

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ソン・ジュンギファンには新たな魅力を堪能できるイタリア育ち設定でしょう。ただし、Netflixの新作韓国ドラマのひとつとして見始めた場合は、やや気取った印象を強めます。その後、舞台はすぐにヴィンチェンツォの母国である韓国へと移っていきます。イタリアマフィアの素性を隠しながら、ソウル都心部にある古びた商業ビル「クムガプラザ」に隠された秘密を守り、周辺の登場人物と関りながらどれだけ話が広がっていくのかと、1、2話の時点では先は見えません。一方、人物相関図は王道の韓国ドラマスタイル。辛酸をなめ続ける庶民と悪の権化のような存在の財閥とのわかりやすい対立構造を掴めます。

始めのトリガーを引く回は3話。ここから一気に流れが変わります。ヴィンチェンツォが「クムガプラザ」の秘密を守る話を一旦後回しに、莫大な富と利権を握る巨大組織「バベルグループ」に食い下がり、マフィアのやり方で見事に制裁していくのです。

その描き方が他の韓国ドラマと一線を画すものに。残虐で重い話ばかりかと思いきや抜群のユーモアセンスが随所に散りばめられたコメディ作でもあり、韓国ドラマお決まりの「サランヘヨ=“愛してる”の韓国語」を封印、そして、リーガルドラマらしいミステリー仕立てと犯罪ドラマらしいアクションのミックス加減に必ずや夢中になるはずです。10話の劇中の台詞にある「時代が変わって正義だけでは勝てなくなった。厳しく、強く、ずる賢く、戦うべきだ」はまさに本作のテーマ。その後も何度も山場を作り、最終話の20話の拷問シーンまで走り切らないと安心できない気持ちにさせる、ずるいドラマなのです。

パロディ満載、映画『パラサイト』ネタも

何が何でも完走したくなり、さらにリピートしたくなるのは『愛の不時着』と共通する芸達者な役者陣の力量が大きく影響しています。ヴィンチェンツォを演じるソン・ジュンギの演技のパーフェクト具合は顔の造形だけではないことを証明し、のちにヴィンチェンツォのバディとなる弁護士ホン・チャヨンを演じたチョン・ヨビンは顔芸を含めたコミカルな演技とデキる女を彷彿とさせるパンツスーツの着こなし加減のギャップが絶妙です。

ヒロインの弁護士ホン・チャヨン役のチョン・ヨビンは本作で注目度が上昇中。コメディエンヌとしての魅力もあふれている(写真:Netflix)

韓国を代表する人気アイドルグループ「2PM」のメンバー、オク・テギョンがサイコパス野郎な役に転じていくのも見どころのひとつにあり、最高の狂気の演技を見せてくれます。若手から中堅まで、物語のカギを握る役者陣の芝居も安定感たっぷり。ホン・チャヨン(チョン・ヨビン)の父親役で弁護士のホン・ユチャンを演じるユ・ジェミョンはちなみに、日本でも人気を集めた『梨泰院クラス』で主人公パク・セロイとの因縁対決を繰り広げたチャンガファミリーのあのドンです。役柄の違いもありますが、同一人物とは思えません。本作でもキーマンであることは変わらず、父と娘の絆を描くファミリードラマとしての側面も担っています。

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