そして、誰が欠けても本作の面白さは成立しないと思わせるのが「クムガプラザ」の住民たち。これぞ韓国のコメディセンスの真骨頂と思わせる場面は多く、チーム一丸となって彼ら彼女らの“必殺仕事人”ぶりに愛着を持てること間違いなしです。
コメディパートは時に笑いの文化の違いから、自国以外ではウケにくい危うさも伴います。けれども、本作の場合は成功しているのです。なぜなら、韓国ドラマからトレンドのBL、不朽のハリウッド映画、絵画の名作に至るまで、実に巧みにグローバルなエンターテインメントファンに向けてパロディ演出を魅力的に引き出しているからです。台詞においても聞き逃すのは勿体ないくらいの小ネタが満載。映画『パラサイト』を観ていたら、笑わずにはいられない場面もあります。これが繰り返し見たくなる要素となり、視聴者が自発的にネタを拾い、盛り上げていくことにもつなげています。
戦略的なコンテンツ制作事業を展開
脚本家は『キム課長とソ理事』『グッドドクター』などヒットメーカーのパク・ジェボムが担当していることでさらに納得します。タッグを組んだ監督はキム・ヒウォン。韓国ドラマ界ではまだまだ稀な存在である女性のドラマ監督の手腕がノワールな作品で活きたことも注目されています。
制作の背景については冒頭のとおり、スタジオドラゴン作品であることも太鼓判を押すものになっています。それは単に『愛の不時着』の制作スタジオであることのみならず、韓国財閥のCJグループ傘下で戦略的なコンテンツ制作事業を展開していることにもあります。
5月6日に発表したスタジオドラゴンの2021年第1四半期(1Q)の業績をみると、営業利益が前期比54.6%の大幅増益で179億ウォン(約17億9000万円)を計上。増益の要因を「新規タイトルの販売価格上昇」と「戦略的な協業による効果」と説明しています。戦略的協業には、国内ではCJグループ内のケーブルテレビ局「tvN」らで放送・配信、国外ではNetflixでほぼ同時展開の世界配信を行う流通体制を示唆しています。『ヴィンチェンツォ』はまさにこのエコシステムに当てはまるもの。貢献した1Qタイトル群のひとつに挙げています。
本作から意外にも、コンテンツ事業の面でも成功させ、好循環を生み出していることが作品のクオリティを上げ、視聴者が満足できるものを提供し続けることができるという理屈にも気づかされます。
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