ローランド、TOB成立でもくすぶる「火種」 焦点は、応募しなかった株主の"追い出し"

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この申し立ては、経営陣の設定した価格に不満を持った株主が、強制的に株式を取得される際、裁判所に適切な買い取り価格を決めてもらうよう申し立てるものだ。弁護士費用などを加味すると、個人株主には負担が少なくない。

ただ、ローランドのケースは、専門家から「TOB価格が安すぎる」との指摘も出ている。上場子会社で業務用プリンタ大手ローランドDGの株式40%を含めた、ローランドの金融資産をどう織り込むかで、評価が大きく変わるからだ。

早稲田大学大学院の服部暢達客員教授は「(金融資産を正しく加味すれば)あるべきTOB株主価値(TOB前の株主が享受すべき価値)は801億円程度、株価でいえば1株3600円程度(TOB価格の約2倍)」と主張する。

必要資金がハネ上がる懸念

裁判所の判断しだいでは、MBOの必要資金はさらに膨らみかねない(撮影:今井康一)

実際、足元では、買い取り価格決定の申し立てで実績のある個人投資家が「価格決定の申し立てを浜松地裁に行う予定。共同申し立てを考えている方はメールください」とブログで呼びかけるなど、具体的な動きが出始めている。

裁判所の判断を正確に予想することはできないが、「原告側が金融資産に焦点を当てた訴訟戦略で臨めば、勝機はかなりあると考えられる」(服部氏)。

仮に裁判所の判断で、TOBで取得できなかった17%の株式を服部氏の示した1株3600円で買収者が引き取ることになると、スクイーズアウトのための必要資金が約71億円(残りの株式379万2169株×1875円)から約136億円(379万2169株×3600円)にハネ上がる。MBOをめぐる火種はまだくすぶっている。

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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