--2009年度卒について、日本経団連の「倫理憲章」(※2)では大学院生についても「学事日程の尊重」を明記しました
「倫理憲章」の趣旨には当社も賛同し、これまで共同宣言に参加しており、2009年度新卒採用についても同様です。ただ、大学院生となると技術系がほとんどですが、すでに採用スケジュールを公表し活動していた最中にお話があったので、かなりの戸惑いがありました。
すでに自社の採用ホームページ上で、1月7日のエントリーシート提出締切り、一次選考が1月下旬~2月上旬、二次選考が2月中旬、最終選考が2月中旬~下旬としており、これをいきなり4月以降に変えることは学生さんにも大きな混乱を生みますし、私たちもその準備が全くできていません。技術系と事務系の採用日程が完全に重なることは、更なる選考日程の遅れにつながるでしょう。ですので、「倫理憲章」の趣旨には賛同しながらも、大学院生の採用については、今年はこれまで公表したスケジュールのもとで進めていく現実的な選択しかないと思っています。
採用担当者としてはジレンマがあります。私たちは学生の皆さんに使っていただく商品を扱っており、就職活動を通して少しでも悪い印象を持たれることはしたくありません。そのような行為はお客さまを失ってしまうことにつながります。ですから、遵守すべきことはすべてについて守る所存です。一方で、採用は他社との人材獲得競争でもあります。守ることは守ったが、当社にマッチした人材は採れませんでしたという言い訳はできない。そのジレンマをいかに克服するかが問題です。
しかし、考えるに採用の早期化を防ぐこのようなルールを本当は日本で採用活動をするすべての企業に当てはまるべきでしょう。現実問題として、企業によっては非常に早い時期に選考を行っていますし、その他の多くの企業も4月中に内定を出しています。結局学生の多くは早期から選考が始まり学業に影響を受けているわけです。また、企業側にとっても選考の開始時期で有利・不利が生まれる可能性があります。一部の企業が自主的に守るということではなく、産業界全体で取り組む枠組みを作るべきではないでしょうか。
個人的な意見としては、4月よりもっと遅い時期でもいいと思うのです。私の頃は4年生時の10月に内定が出ていました。大学生が充実した学生生活を送り、その総決算が就職活動で出るようにすべきです。早期化が進みすぎると、学生時代に打ち込んだものを見ようとしても、まだ途中ということになってしまい、採用する側も判断できなくなってしまう。実際、ゼミにおける卒論の話を学生に聞くと、就職活動が終わってから考えますという学生が多い。結局かわいそうなのは学生さんの方です。
--内定後、入社後のフォローはいかがですか
内定を出した後、社員の講演を2回実施しています。入社前にリアルな仕事イメージをできるだけ持ってもらうためです。
新入社員としての育成計画は最近見直しをし、さらに長く研修期間をとるようにしました。およそ3~4ヶ月を導入研修に使い、例えば営業であれば一人で外に出る前に色々な部門を経験するなどして環境になじませるようにしています。その後も年3回フォロー研修を行います。今の若者はポテンシャルは充分ありますが、組織でもまれた経験が少ないため、フォローが必要です。特に異世代とのコミュニケーション経験に欠けており、環境になじませるためのケアが重要ですね。
また、当社では、2003年度採用までは採用を縮小していた時期があり、毎年30人~40人くらいしか採用していませんでした。ですから、新入社員が先輩として最も影響を受ける年代が少ないこともあり、組織的な研修、フォローが必要だという側面もあります。
採用した人は一人の脱落者も出ないように大事に育て、企業価値、理念、文化を次に伝えていく。それが資生堂の人材採用、育成のやりかたです。
(※2)「倫理憲章」…正確には「大学・大学院新規学卒者等の採用選考に関する企業の倫理憲章」。日本経団連が新卒採用について企業側の一定のルールを示し、会員企業に参加を呼びかけて共同宣言を行っている。2008年度新卒採用では860社、2009年度では11月末現在で819社が共同宣言している。
【このひとにお話をおうかがいしました】 深澤晶久(ふかざわ あきひさ) 株式会社資生堂 人事部次長 人材開発室 人材育成G グループリーダー 1980年法学部法律学科卒 同年資生堂入社、営業、本社マーケティング、商品開発部門、労働組合委員長を経て、2004年人事部。2006年4月より採用・研修グループリーダーとなる。 採用という仕事について、「入社後長い期間にわたり会社で活躍する人材を入り口で迎えるわけですから、本当に責任の重い仕事だと感じでいます。採用が会社を変える、とつくづく思いますね。また、学生さんと接していると若いエネルギーをもらえることも仕事のやりがいに通じます」 今の日本の採用については、「ミスマッチで多くの方が数年以内で離職してしまうのは本当にもったいないことです。大切なことは自分の人生をかけるに値する会社、仕事と出会えること。お互いが納得して相思相愛で入社できる、そういう環境になるように、採用する側・就職する側双方の努力がより必要なのではないでしょうか」と語る。
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