さらに警察官によっては、「どうせ酔っぱらいのたわごとだろう」と、客の話に耳を傾けない人もいた。お店側は、その対応を見て味をしめ、街全体でぼったくりが加速していったのだ。実際に当時、歌舞伎町の交番前は、週末になると客とぼったくり店の店員でごった返していたという。
「ひどいケースになると、深夜から翌日のお昼まで、ずっと交番の前で拘束されていた人もいました。店員は開放してくれないし、お巡りさんからも『このまま帰ったら無銭飲食だよ』と言われて、その人は困って私のところへ電話してきたんです。
私は『タクシーに乗って逃げてください』と言ったのですが、洋服をつかまれていてそれもできないと。結局、お店に戻って支払いをしたそうです。警察法で定められた警察官の責務に、『国民の生命、身体および財産を保護する』とあるのに、被害者を助けないなんて、本当に異常な世界でした」
リアルタイムでぼったくられそうな人には…
現状を知れば知るほど、被害者を救いたいという青島さんの思いは強まっていった。それまでは、リアルタイムでぼったくられようとしている客から電話があったとき、「交番に行ってください」「自分の連絡先をお店の人に教えて、裁判を起こすならどうぞ、と伝えて帰ってください」など、状況に合わせたアドバイスを行ってきたが、現実的にそれ以上の介入は難しかった。
「急に電話をもらい、会ったこともなければ正式な代理人でもない私が、お客さん側の言い分だけを聞いて、『それはぼったくりだ、お店が悪い』と決めつけて出向くことは、立場上難しいんです。介入するにしても、それなりの弁護士費用をいただかないといけない。お客さんからすると、支払い先が変わるだけで、失う金額が変わらないのであれば、あまり意味がないのかなと」
また、ぼったくり店に支払ってしまったお金を取り返したい、と相談に来る被害者も多かったが、実際はかなり困難となる。交渉したとしても、お店側が自分たちは正当だと主張している以上、自発的に返金に応じることはまずないからだ。仮に裁判をして勝訴しても、お金が戻ってくる保証はなく、弁護士費用だけかかってしまうこともある。そういったことを説明すると、泣く泣く諦める被害者も少なくなかった。
何とか被害者の力になりたい。けれど、ボランティアで動くのも違う。そこで青島さんが考えたのが、歌舞伎町ぼったくり被害相談室の開設だった。反響は予想以上に大きく、被害者から続々と体験談が寄せられた。あまりにも被害者が多い店は、名指しで公開した。事実に基づいた情報のため、仮に店側から裁判を起こされても、対処できるという判断だった。幸いにも、当該店舗からのクレームや脅迫はなかったが、「謎のいたずら電話はありました(笑)」。
WEBサイトは、ぼったくりの現状を表すデータとして、歌舞伎町の組合関係者や、警察関係者も閲覧していたという。青島さん自身も、ぼったくりに精通した弁護士として、しばしばメディアに出演するようになった。そのたびに提言し続けてきた内容が、現実になったこともある。客とぼったくり店のスタッフが交番に来た場合、警察官はまず両者を引き離すべき、という提言だ。
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