「お巡りさんは、お客さんの味方をする必要はないけれど、両者に直接やり取りさせるのではなく、引き離してほしい。お店側に連絡先を伝える必要はありますが、そのうえでパトカーやタクシーでお客さんを先に帰して、時間的猶予をあげてほしいんです。そして、お店側に『あなたの言い分が正しいなら、後で裁判を起こしなさい』と伝えるようにすれば、被害は激減すると思います」
2015年6月、警察の対応がまさにそのとおりに変わった。客と店員が交番に来ると、客をパトカーで新宿署まで移動させ、事情を聞くようになったのだ。青島さんの提言が、直接的に影響しているのかは不明だが、「私が言っていたことが実践されたに違いないと勝手に思っています(笑)」と満足げだ。その後、こちらも青島さんが推測したとおり、歌舞伎町のぼったくり被害は目に見えて激減した。
歌舞伎町のアナウンスが変わった
近年は、YouTuberによるぼったくりバーへの潜入動画や、被害者のSNSでの投稿・拡散なども、注意喚起につながっている。歌舞伎町の街頭スピーカーからは日夜、「客引きは100%ぼったくり」「着いていくと高額な請求をされます」とアナウンスが流れている。ただし、ぼったくり被害がゼロになることはないだろうと、青島さんは話す。
「客引きが声をかけて、99人が無視しても、ついてくる1人から徹底的にむしり取ろう、というずるがしこさがぼったくり店にはあります。なのでさみしい話ですが、客引きはみんなうそつきだと考えて、無視することが大前提です。もしぼったくりに遭遇したら、『支払ったら最後』くらいの気持ちで、『じゃあ裁判を起こしてください』と結論を後回しにし、連絡先を伝えて何とか逃げること。そうすれば、こちらが断然有利になりますから。可能であれば、やり取りの録音か動画での撮影もするべきです」
それでも、どうしても被害に遭ってしまう人はいる。ぼったくりを完全になくそうとするなら、ビルのオーナーが悪質なテナントを排除したり、警察がもっと対策を強化したりと、方法はあるはずだが、すぐにすべてをできるわけでもなく、なかなか変えられない現実もある。
だからこそ、青島さんが理想だと考えているのは、平和が保たれることだという。平和とは、よい力と悪い力のゆらぎの中で、比較的安定した状態が保たれること。被害を完全にゼロにはできなくても、可能な限り少なく抑えられている状態の継続こそを、現実的な観点から目指すべきと青島さんは考える。それが崩れてしまうと、またかつてのようになってしまうからだ。
「そのゆらぎには、警察や裁判所やメディア、歌舞伎町でまっとうに商売をされている方たちなど、たくさんの人が関わっています。僕もその一人として、ゆらぎのバランスが大きく崩れないよう、支えていく存在であり続けたいですね」
歌舞伎町ぼったくり被害相談室は、そのゆらぎを支えるだけでなく、被害者の気持ちを浄化する場としても機能している。寄せられた体験談は必ず、被害者の立場に寄り添った、青島さんの温かいコメントとともに公開されている。それだけでも、本人はかなり救われるだろう。また読者からの「本当にひどいですね」「私もまさにこの店で同じ被害に遭いました」といったコメントも、慰めになっているはずだ。
「ぼったくりって、人の欲望やちょっとした気の緩みに付け込んだ、ろくでもない行為だと思います。平和に日常を送っていた人が、急に地獄に突き落とされるような出来事じゃないですか。家族にも打ち明けづらかったりもしますし。だからこそ、みんなに共有することで、せめてもの救いになればいいなと思っています」
取材後、夜の歌舞伎町を歩いてみた。ぼったくり注意喚起のアナウンスなどお構いなしに、「どんな店お探しですか?」と客引きが声をかけてきた。軽く頭を下げてやり過ごす。目には見えないけれど、青島さんたちが支えているゆらぎを、少しだけ感じた気がした。
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