自宅の「箱ティッシュ」メーカーを答えられますか スマホメーカーを答えられない人は少ないのに

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企業で新規事業を検討する際、「ニーズ調査」を根拠とすることが多くあります。しかし、調査して分かるような「ニーズ」や「社会課題」は、他の企業にもみえるものです。みんなにみえている「おなじ」課題から出発し、ロジカル・シンキングすると、誰もがほぼ「おなじ」ソリューションにたどり着いてしまいます。

企業の企画会議ではよく、サービス・コンセプトに対する定量調査データを求められます。すると大多数がほしいと答えるサービスしか採用されないことになり、結果としてそのフィルターを通るアイディアは「箱ティッシュ」のように、どこかにあるような「おなじ」ものになってしまうのです。

さきほど述べたように、箱ティッシュのニーズはスマホ以上であり、ほぼ100%です。では企業はもっと箱ティッシュ事業に参入すべきでしょうか? 箱ティッシュはこれほどニーズがあるのにほとんど覚えられてすらいません。そういうプロダクトで勝負すると、最終的には過当競争による値下げ合戦や消耗戦になってしまいます。

万人向けではないからこそ求められる「鼻セレブ」

ところでときどき、箱ティッシュのブランドを自信満々に挙手して回答してくれる方がいます。「鼻セレブです」。「鼻セレブ」は花粉症に悩む人に特化してターゲットとしたティッシュです。ターゲットを絞っており値段も高いので、もしアンケートを取ればニーズの割合はおそらく2割未満になるのではないかと思います。しかし、しっかり「ちがい」があるので覚えてもらえるのです。

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「箱ティッシュ」が教えてくれることは、代替可能なものは、「ニーズ」がどれほどあっても「おなじ」ものにあふれた成熟市場では選ばれないもの、価値の低いものになってしまう、ということです。

(あくまで思考実験としてですが)もし箱ティッシュをつくる企業の一つがなくなっても、おそらくみなさんはあまり困らないでしょう。他のティッシュを使えばいいだけだからです。もしかすると、なくなったことに気づきさえしない方もいるのではないでしょうか。すくなくともアップル社がなくなって困る人に比べれば圧倒的にすくないはずです。

このように「おなじ」ものは飽和市場ではともすると「なくてもいいもの」になってしまいます。それに対し、「ちがい」があり、他で代替できない価値がつくられればそれこそが存在事由となり、なくなっては困る事業として社会から応援してもらえるのです。

若宮 和男 起業家(uni'que Founder/CEO)、アート思考キュレーター、ランサーズタレント社員、一級建築士

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わかみや かずお / Kazuo Wakamiya

建築士としてキャリアをスタート。その後東京大学にてアート研究者となる。2006年、IT業界に転身。NTTドコモ、DeNAにて複数の新規事業を立ち上げる。2017年、女性主体の事業をつくるスタートアップとして『uni'que』を創業。「全員複業」という新しい形で事業を成長させ、2019年には女性起業家輩出に特化したインキュベーション事業『Your』を立ち上げるなど、新規事業を多数創出している。資生堂をはじめ数々の企業内新規事業の外部ブレーンを務める。アート思考の第一人者として講演やワークショップを通じ社会にアートを根付かせる活動も行う。著書に
『ぐんぐん正解がわからなくなる! アート思考ドリル』(実業之日本社)などがある。

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